ダイエットなんてできません - 地味系プログラマーとワイルド系SE
第二話 「ダブルデートのお誘い」
水曜日。窓の外では、ビル群が初夏の午後の日差しを受けてきらめいていた。
穂花は、テスト結果を報告書にまとめているところだった。あと少し。開発したプログラムを本番環境用にパッケージ化し、品質管理チームに引き渡せば、ひとまず一区切りだ。
ふっと席を立ち、キャビネットの上の籠からチョコチップクッキーをひとつ取り出す。口に放り込みながら、モニターに向き直る。
――さあ、ラストスパート。
修正仕様書、テスト報告書、インストールパッケージ……それらを圧縮フォルダにまとめ、品質管理チームに送信。
「おわったあ」
背もたれに体を預けて、大きく伸びをした。
「穂花、次の土曜日、空いてる?」
背後から声がかかり、肩にぽんと手が置かれる。夏希だった。
――そういえば最近、週末は家でゴロゴロしてばかりだったな。
「空いてるけど……なに?」
「ウチらと、都庁の展望室行かない?」
「なんで急に……?」
「秀樹がね、三田村さん誘ってくれてるの」
「え、それって……ダブルデートってこと!? やめてよ、私、夏希みたいに可愛くないし、スタイルだって全然だし……」
「何言ってるの。穂花は十分可愛いよ」
「……」
「ね、もうちょっとメイクしてみたらどうかな。今のままでも可愛いけど、メイクしたらもっと自信つくし、気分も変わるって。私が教えてあげるから」
穂花は、となりの席に目を向けた。
助けを求めるように視線を送った先は、先輩プログラマーの上条紗香。落ち着いた雰囲気の美人で、まさに“きれいなお姉さん”そのもの。
「先輩、どう思います?」
「ん? 何の話?」
紗香はまだ仕事に集中していたようで、少し遅れて顔を上げた。
「穂花をダブルデートに誘ったら、自信ないって言うから、私がメイク教えてあげようかって話」
「……」
紗香は夏希を一瞥した。普段から完璧なメイクをしている彼女の顔を見て、小さく笑う。
「うーん……夏希ちゃんに教わるのは、ちょっと危険かもね」
「ちょ、どういう意味!?」
夏希は不満げに口をとがらせたが、その表情にはどこか演技っぽさが混じっていた。――メイクが派手なのは、本人も自覚しているのだろう。
「プロに頼りましょ。私が使ってる化粧品のカウンターに連れて行ってあげる。一緒に、帰りに寄りましょう」
「あ、はい……」
――あれ? 行くって言ってないのに。
けれど、頬の内側がほんの少しだけ熱くなるのを、穂花は感じていた。
気づけば、なぜかダブルデートに行くことが既成事実みたいになっていた。
穂花は、テスト結果を報告書にまとめているところだった。あと少し。開発したプログラムを本番環境用にパッケージ化し、品質管理チームに引き渡せば、ひとまず一区切りだ。
ふっと席を立ち、キャビネットの上の籠からチョコチップクッキーをひとつ取り出す。口に放り込みながら、モニターに向き直る。
――さあ、ラストスパート。
修正仕様書、テスト報告書、インストールパッケージ……それらを圧縮フォルダにまとめ、品質管理チームに送信。
「おわったあ」
背もたれに体を預けて、大きく伸びをした。
「穂花、次の土曜日、空いてる?」
背後から声がかかり、肩にぽんと手が置かれる。夏希だった。
――そういえば最近、週末は家でゴロゴロしてばかりだったな。
「空いてるけど……なに?」
「ウチらと、都庁の展望室行かない?」
「なんで急に……?」
「秀樹がね、三田村さん誘ってくれてるの」
「え、それって……ダブルデートってこと!? やめてよ、私、夏希みたいに可愛くないし、スタイルだって全然だし……」
「何言ってるの。穂花は十分可愛いよ」
「……」
「ね、もうちょっとメイクしてみたらどうかな。今のままでも可愛いけど、メイクしたらもっと自信つくし、気分も変わるって。私が教えてあげるから」
穂花は、となりの席に目を向けた。
助けを求めるように視線を送った先は、先輩プログラマーの上条紗香。落ち着いた雰囲気の美人で、まさに“きれいなお姉さん”そのもの。
「先輩、どう思います?」
「ん? 何の話?」
紗香はまだ仕事に集中していたようで、少し遅れて顔を上げた。
「穂花をダブルデートに誘ったら、自信ないって言うから、私がメイク教えてあげようかって話」
「……」
紗香は夏希を一瞥した。普段から完璧なメイクをしている彼女の顔を見て、小さく笑う。
「うーん……夏希ちゃんに教わるのは、ちょっと危険かもね」
「ちょ、どういう意味!?」
夏希は不満げに口をとがらせたが、その表情にはどこか演技っぽさが混じっていた。――メイクが派手なのは、本人も自覚しているのだろう。
「プロに頼りましょ。私が使ってる化粧品のカウンターに連れて行ってあげる。一緒に、帰りに寄りましょう」
「あ、はい……」
――あれ? 行くって言ってないのに。
けれど、頬の内側がほんの少しだけ熱くなるのを、穂花は感じていた。
気づけば、なぜかダブルデートに行くことが既成事実みたいになっていた。