ダイエットなんてできません - 地味系プログラマーとワイルド系SE
第五章:変わっていく私と、変わらない想い

第一話 「新たな挑戦」

 7月に入って最初の月曜日。
 週明けの空気は少しだけ重たいけれど、穂花はいつも通りデスクに向かい、未読メールの確認から一日を始めていた。
 ひと通りのチェックが終わり、仕掛中のバックログ案件を開いたところで、情報系チームのリーダー・宮田守がこちらへ歩いてきた。

「ちょっと二人に相談がある」
 穂花と、隣の席の紗香が顔を上げる。
「今、少し大きめの案件が来ててね。担保管理システムとの連携を強化するやつなんだけど――西山さんにリードをお願いしたいと思ってる」
「えっ、私ですか?」
「うん。最近、若手とも積極的に情報共有してくれてるし、チーム全体を見ようとする姿勢が出てきてる。そろそろ、やってもらってもいい頃かなって」

 宮田はそう言いながら、穂花の表情を確認するように目を細めた。

「上条さん、どう思う?」
 隣の紗香が、柔らかく微笑む。
「穂花ちゃん、全然問題ないと思いますよ。岡田くんとも上手くやってるし、川上さんとも最近話してたでしょ?」
「……はい。やらせてください」
 そう口にしたとき、自分の声が少しだけ強くなっていたのに気づいた。
 胸の奥に灯ったのは、不安よりも、ほんの少しの誇らしさだった。

   ◇◇

 会社帰り、駅前ビルのカフェで、穂花と隆二は向かい合って座っていた。注文したアイスティーのグラスが、水滴をまとっている。

「今日ね、ちょっと大きめの案件で、リーダー任されちゃった」
 穂花が、グラスの縁に指を添えながら言った。視線はテーブルの端。

「穂花さんが? それは……すごいじゃん」
 隆二は、口元にゆるく笑みを浮かべた。

「うれしいけど、ちょっと不安もあるよ。若手ふたりとチームでやるんだけど、うまく引っ張れるかどうか……」
「大丈夫だよ。穂花さん、ちゃんと周り見えてるし、気配りもできる。だから任されたんだろ?」
 まっすぐな言葉に、思わず胸が熱くなる。

「……ありがとう」
 ふっと息をついて、穂花は彼の顔を見た。
 ――こうして話せる人がいるって、すごく、心強い。

「何かあったら、俺にも話して。俺、けっこう人のグチ聞くの得意だから」
 照れくさそうに笑う隆二に、穂花も自然と笑顔になっていた。
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