ダイエットなんてできません － 地味系プログラマーとワイルド系SE

第二話 「新たな日常」

　土曜の午後。
　穂花と隆二は、新宿西口から少し歩いた静かなカフェに腰を下ろした。
　木の温もりが感じられる店内は、人もまばらで、二人きりの時間がゆっくり流れている。

「ここ、雰囲気いいね」
　穂花がカップを指先で転がしながら、窓の向こうの緑を眺める。
　隆二は軽く微笑んで、「そうだね」と頷く。

「例の案件うまくいってる？」
　隆二の問いに、穂花は少し考えてから、口を開いた。

「まあまあかな。思い通りにいかないこともあるけど、チーム作業も楽しいって思えるようになってきた。グループリーダーをしている隆二さんは、もっと大変なんだろうなって」
「そんなことないよ。でも、そうやって周りに目が向いてきたっていうのは、すごくいいことだと思う」
「ありがとう。最近ようやく、技術だけじゃないってこと、少しずつ分かってきた気がする」

　二人の間に、穏やかで優しい時間が流れた。

「紫陽花、綺麗だったね。あの明月院、あんなに沢山咲いてるとは思わなかった」
と隆二。

「うん、すごく綺麗だった。あなたと並んで撮った写真、夏希にも自慢しちゃった…。
そしたら、夏希も秀樹さんと取った写真見せてくれて、同じ場所じゃん、って笑ってた」
「それは、よかった……」

　その笑顔に、穂花の心臓がほんの少し高鳴った。

　会話と笑いの間に、カフェの静かなBGMが優しく揺れる。
　「じゃあさ、今度別の場所も行こうか」
　と隆二がささやく。
　「うん、いいね」

　彼と過ごす時間は日常になりつつあった。それでも穂花は、目の前のこの瞬間が特別で愛おしく感じられた。