誰にでも優しいくせに、私だけに本気なんてズルい– 遊び人エリートのくせに、溺愛が止まらない –

第7部 本気の夜、ふたりの距離

居酒屋の暖簾をくぐると、木の温もりを感じる落ち着いた空間が広がっていた。

カウンター席に案内されると、桐生部長が中央、私と上林さんがそれぞれ両脇に座った。

「なんか、贅沢ですね。部長を挟んで飲むなんて。」

そう言ったのは上林さん。私は思わず笑ってしまう。

「贅沢って……俺はただの酒好きだよ。」

そう言いながらも、桐生部長の横顔は穏やかだった。

普段のクールな上司とは少し違う、肩の力が抜けた表情。

「紗英ちゃん、飲めるクチ?」

「ええ、まあ……ほどほどにです。」

「今日は飲んでいいよ。俺がいるから。」

部長の何気ない言葉に、胸の奥がじんとした。まるで、特別に守られているような錯覚。

「じゃあ乾杯!」

「乾杯!」

グラスを合わせた瞬間、私はふと、自分が今どこにいるのかを不思議に思った。
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