誰にでも優しいくせに、私だけに本気なんてズルい– 遊び人エリートのくせに、溺愛が止まらない –

第8部 嫉妬と再来する影

営業部が繁盛期に入ってから、隼人さんとはなかなか会えなくなった。

「ごめんな、紗英。かまってやれなくて。」

夜遅く、電話越しに聞こえる彼の声は、いつもより少し疲れていた。

「ううん、隼人さんは部長なんだもん。そこは頑張らないと。」

私はできる限り明るく返した。……寂しいなんて、言っちゃだめだと思ってた。大人なんだから。

だけど――

(声が聞きたいな)
(会いたいな)
(ほんの少しでいいから、顔が見たいな)

そんな想いが、胸の中で積もっていった。

給湯室でコーヒーを淹れていると、美羽さんが入ってきた。

「あら、篠原さん。」

「あ……お疲れさまです。」

私がぺこりと頭を下げると、美羽さんはカップを取りながら、ふっと意味ありげに笑った。

「ねえ、まだ続いてるんですか? 桐生部長と。」

「え、ええ……」

< 215 / 291 >

この作品をシェア

pagetop