誰にでも優しいくせに、私だけに本気なんてズルい– 遊び人エリートのくせに、溺愛が止まらない –

第10部 それでも、あなたを選ぶ

翌月、私と隼人さんは、私の故郷である海辺の町へやってきた。

「いいところだね、潮の香りがする。」

助手席で風を受けながら、隼人さんが言った。

海沿いの道をゆっくりと走る車の窓からは、懐かしい風景が広がっている。

「何もないのよ、ただの漁師町。」

「何もないところほど、心が落ち着くもんだよ。」

そうして、ついに小さな木造の家に辿り着く。玄関先に、懐かしい姿があった。

「やっと来たか。」

「おばあちゃん!」

笑顔のまま、私をぎゅっと抱きしめてくれる。

「お久しぶり。元気そうでよかった。」

「うん、仕事も辞めて、新しい生活を始めるの。」

その言葉に、おばあちゃんの目がふと、私の隣の隼人さんへ向いた。

「こっちが……?」

隼人さんは深く頭を下げた。

「初めまして。桐生隼人と申します。紗英さんと結婚を前提にお付き合いしています。」
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