誰にでも優しいくせに、私だけに本気なんてズルい– 遊び人エリートのくせに、溺愛が止まらない –

第2部 彼の優しさは嘘に見える

それから桐生部長は、やたらと私に話しかけてくるようになった。

「篠原さん、この書類書いておいたよ」

そう言いながら、わざわざ私のデスクまで来て手渡してくる。

(……ただ机に置いてくれればいいのに)

私は手を止めて顔を上げる。

「ありがとうございます。」
ちゃんとお礼を言わなきゃいけない。

それが面倒だなんて思うのは、私の心が乱れてる証拠かもしれない。

そして、いつものように——さりげなく爆弾を落としてくる。

「で、いつイタリアン行く?」

あまりに自然すぎて、耳を疑った。

でも、彼は真顔だった。悪びれもせず、むしろ軽やかに言ってのける。

「……いつでも。」

つい口をついて出た答えに、自分で驚く。

彼の目が、少しだけ細くなる。

「じゃあ、今度空けておくよ。」

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