ラストランデヴー

「こういう場所で会うのは、今夜で最後にしましょう」

 シャワーを浴びて身支度を整えた私は、シャツの前をはだけたままの田島部長に向かって言った。

 彼は面倒くさそうにまばたきをした。

 そして長いため息をついたあと、憂いを帯びた瞳をこちらに向けてフッと微笑んで見せる。

「みどりが俺を呼び出したのは、それを告げるためか」

 私が小さく頷くと、彼は目を伏せた。

 重苦しい沈黙が支配する部屋の中央で、立ち去るタイミングを逃してしまったことに気がついた私は焦燥に駆られる。


 さようならと言って、今すぐここを出なくては――。


 しかし、先に動いたのは田島部長だった。


「じゃあ最後にプレゼント」

「えっ?」


 鞄の中から綺麗に包装された小箱が出てきた。

 驚いているうちにビリビリと外側の包装紙は破かれ、箱の中から小ぶりのアクセサリーが田島部長の手に滑り落ちる。

 彼は棒立ちになっている私の前に来て、私の手をつかんだ。


「昔、すごく好きになった女の子がいたんだ」


 手を繋いだまま、田島部長は静かにそう言った。

 彼に別れを切り出した直後なのに、嫉妬で胸がズキッと痛む。

 シャツの間から見える彼の素肌が少し憎らしくなった。
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