ラストランデヴー

 真新しいシーツの波間に身を泳がせる瞬間、私はこの世で1番の幸せ者だと感じていた。

 男性としては特上の部類に入る彼の寵愛を一身に受けるのだ。

 歓喜の渦にさらわれ、私は快楽の世界の虜となる。

 優しく降り注ぐ彼のキスに、肌を撫でる彼の指先に、身も心も激しく乱された。

 でも溺れるように愛し合う日々は、半年をすぎると落ち着きを見せ始めた。

 今思えばそれは私のせいかもしれない。

 私は田島課長に対してある不満を持つようになっていたのだ。

 彼とのデートはいつもワンパターン。食事をして、ホテルに行き、別々の家へ帰る。毎回場所は違うものの、必ずこの流れだった。

 どうして彼の家に誘われないのだろう。

 デートのあと、ひとりでとぼとぼと夜道を歩きながら虚しさを噛み締める。

 それが幾度か繰り返されると、田島課長と私の間には越えられぬ壁があることを確信するようになった。


 最初から彼は私に全てを見せるつもりなどなかったのだ。

 彼は私を恋人ではなく愛人にしたかったのだ。


 諦めのようなものを感じた私に、突然ひとつの疑念が生じた。

 田島課長が私の顔をじっと見つめる理由は、私が誰かと似ているからではないだろうか。


 誰か――?


 私の脳裏には疑念と同時にその答えが浮かび上がっていた。
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