御曹司さま、推しと恋は似て非なるものなのですが
プロローグ
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【今どきアプリでの出会いなんて普通だから大丈夫だって!】

【てういか、お姉ちゃんもやったほうがいいよ。いつまで二次元の男にキャーキャー言ってるつもりなの? 冷静に考えてよ、あれは〝絵〟だからね】

メッセージアプリの画面にポンッと届く妹からの辛辣な言葉。

身内だからこその容赦のなさに、笹原芽衣子(ささはらめいこ)は「うっ」と顔を曇らせた。

アプリで数回やり取りしただけの男とデートをするというふたつ年下の妹を姉として心配しただけなのに、なぜ自分がダメージを負うはめになっているのだろう。

(いつまでだって私の自由でしょう?)

芽衣子は親指を動かし【私のことは放っておいて】と心からの訴えを打ち込んだ。そして、それ以上のやり取りは見たくないとばかりにスマホを仕事用のトートバッグにしまって、表情と気持ちを仕事モードに切り替える。

夏の盛りへと向かう七月初旬の月曜日、現在の時刻は朝の八時半。芽衣子はちょうどオフィスに到着したところだ。

職場である『ナツメ開発』は都市開発、とくに古くなってしまった街の再開発をメインに手掛けている企業だ。

旧財閥の流れをくみ、不動産業界では押しも押されもせぬリーディングカンパニー『ナツメホールディングス』のグループ会社になる。都市開発は決して楽な仕事ではないけれど、安定した業績に充実した福利厚生と従業員にとっては安心感のあるホワイト企業だと思っている。

芽衣子は入社後の二年間を営業部、その後はずっと秘書室で役員秘書として働く、入社五年目の中堅社員だ。
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