先輩の添い寝係になりました

■第5話:初めての添い寝

 (きょう)の寝室に入ると、ゆったりしたダブルベッドが置かれていた。

「余計なものはおかないようにしているんだ」
「なるほど……」

 眠りに特化した寝室は、とてもくつろげそうだ。

(私なら五秒で眠れるな……)

 響がさっそく布団に入る。

「よかったら、隣に寝転がってよ。椅子ないし」
「えっ、でも……」
「掛け布団の上に乗っちゃっていいから」
「うっ……」

 眠るまでの見守り役と思っていたが、それでは完全に添い寝だ。
 だが、響の頼みなら叶えてあげたかった。
 ここまで来たら徹底的にやるしかない。

「お邪魔します」

 瑞音(みずね)はベッドに上がると、響の傍らに横たわった。
 すぐ近くに響の顔がある。

(うわ……やっぱりすごく綺麗な顔だな……)

 長い睫毛や切れ長の目、通った鼻筋に思わず見とれてしまう。

(こんなそばで見ることがあるなんて……)

 あまりに近すぎて、相手の体温すら感じられる。

「じゃあ、おやすみ」

 響が静かに目を閉じる。
 ドキドキとする鼓動を必死で鎮める。

(呼吸を合わせて――寝やすいように……)

 瑞音は目をつむった。
 心地のいい寝具の感触に、一瞬で眠りに落ちた。

         * 

「おはよう」
「えっ……」

 声をかけられ、瑞音はハッと目を覚ました。

「……っ!」

 響の顔がすぐ隣にある。
 少し寝乱れた髪が頬にかかっていて、ドキッとする。
 カーテンの隙間から、明るい日差しが差し込んでいた。

「えっ、私……」

 いつの間にか寝てしまっていたらしい。

(添い寝どころか、がっつり寝ちゃった!!)

 焦る瑞音に対し、響は穏やかに微笑んでいる。

「今起きたところなんだけど――すごくスッキリしてる! うなされなかったみたいだ!」

 響が顔を輝かせる。

「こんな気持ちよく起きられるなんて何年ぶりだろう……。ありがとう! 昼寝ちゃんのおかげだよ!」

 響は惜しみない感謝の気持ちを伝えてくれていたが、こちらは寝起きの姿を見られてそれどころではない。

「そ、そうですか。それはよかった……」

 必死で髪を整えながら、瑞音はなんとか笑顔を作った。

(ああ、寝起きの顔を見られるなんて……)

「昼寝ちゃん、ごめんね。寝づらかったんじゃない?」
「いいえ! 一瞬で寝ちゃったみたいで、すいません!」

 響が寝付いたら、客間に移動するつもりだったのだ。
 それがあまりの寝心地の良さに熟睡してしまった。

「それは全然。朝ご飯作るから、顔洗ったり着替えたりしておいでよ」

 響が軽い足取りで寝室を出ていく。

「ああ……やらかした……」

 だが、響はよく眠れたようでご機嫌だ。

「結果がよければすべて良し、かな……」

 瑞音は洗面所へ向かった。
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