先輩の添い寝係になりました
■第6話:同居の申し出
きちっと身だしなみを整えてダイニングに行くと、既にテーブルには食事が並べられていた。
「わあ……和食だ!」
「今日は撮影があるから、しっかりお腹にたまるものにしたんだ」
玄米ご飯に卵焼き、野菜の煮物に味噌汁という、完璧な朝ご飯に瑞音は感激した。
朝はぼうっとして、野菜ジュースやシリアルで済ます瑞音の朝食と大違いだ。
「すごく美味しそう! 朝からすごいですね」
「煮物は作り置きだからね。そんなに時間かからないよ」
響がニコッと笑う。
「作り置き……ですか。すごいなあ」
自炊が面倒でついついお惣菜やコンビニのご飯に頼っている瑞音からすると、理想の生活だ。
「体が資本だからね」
「ですよね」
何度も同じ演技を繰り返し、場合によっては走ったり、大声を出したりと役者は常に体力勝負になる。
「瑞音ちゃんはそろそろ出勤の時間?」
「あ、あの……実は仕事を辞めたばかりで……」
「えっ!」
響が驚くのも無理はない。
瑞音は恥ずかしさにうつむいた。
「無職になったんで、節約のためと思ってシェアハウスを……」
「じゃあ、今って住所不定無職ってこと?」
「そうです……」
言葉にすると、改めて現状の不安定さが浮き彫りになる。
「次の仕事は……?」
「アルバイトをしながら探そうと……」
「前職で何かトラブルでも?」
響が心配そうに尋ねてくる。
次の仕事が決まっていないのに辞めるなんて訳ありに決まっている。
「社長の息子に粘着されて。それで家まで押しかけられて……」
「ストーカーか……。酷い目に遭ったね」
「はい……」
瑞音は立て続けに見舞われた不運を思い出した。
とても落ち込んでいたが、響との再会によってすっかり頭から消えていた。
「それじゃあ、仕事も家も一気に替えたくなるよなあ……なるほど」
響が箸を置く。
「じゃあ、俺とこの家で同居しない?」
「えっ……」
「無料で住めるから、安心して仕事を探せるよ。それに、つきまとわれてるんだったら男と一緒に住んでたほうが安心じゃないか?」
「それはそうかもしれないですけど……」
「部屋は客間が空いてるし、タワマンだから一階に警備員がいる。何かあったらフロントに連絡したら、コンシェルジュが対応してくれるよ」
「……」
聞けば聞くほど魅力的な条件だ。
だが、高校時代の先輩というだけで甘えるわけにはいかない。
断ろうと口を開きかけた時だった。
「でも、条件がある。いや、お願いかな」
「なんですか?」
「俺の添い寝係になってほしい」
冗談かと思ったが、響の顔は真剣そのものだ。
「添い寝って……」
「誓ってやましいことはしない。ただ、昨晩みたいにそばで寝てほしいんだ」
「い、一緒に寝るってことですか!?」
響がテーブルに手をついて頭を下げる。
「あんなに爽快に目が覚めたのって、もういつだったか思い出せない。きみがいてくれればきっといい睡眠が取れると思う!」
「で、でも……!」
「頼む!」
響からは切実さが伝わってきた。
確かにハードな仕事をしている響にとって、睡眠は死活問題だろう。
そして、仕事、私生活共にトラブルに見舞われた瑞音は疲れ切っていた。
これから新たな住まいを探して、生活を立て直す気力がない。
それに――もう少しだけ響のそばにいたかった。
「私こそ……お願いします」
「わあ……和食だ!」
「今日は撮影があるから、しっかりお腹にたまるものにしたんだ」
玄米ご飯に卵焼き、野菜の煮物に味噌汁という、完璧な朝ご飯に瑞音は感激した。
朝はぼうっとして、野菜ジュースやシリアルで済ます瑞音の朝食と大違いだ。
「すごく美味しそう! 朝からすごいですね」
「煮物は作り置きだからね。そんなに時間かからないよ」
響がニコッと笑う。
「作り置き……ですか。すごいなあ」
自炊が面倒でついついお惣菜やコンビニのご飯に頼っている瑞音からすると、理想の生活だ。
「体が資本だからね」
「ですよね」
何度も同じ演技を繰り返し、場合によっては走ったり、大声を出したりと役者は常に体力勝負になる。
「瑞音ちゃんはそろそろ出勤の時間?」
「あ、あの……実は仕事を辞めたばかりで……」
「えっ!」
響が驚くのも無理はない。
瑞音は恥ずかしさにうつむいた。
「無職になったんで、節約のためと思ってシェアハウスを……」
「じゃあ、今って住所不定無職ってこと?」
「そうです……」
言葉にすると、改めて現状の不安定さが浮き彫りになる。
「次の仕事は……?」
「アルバイトをしながら探そうと……」
「前職で何かトラブルでも?」
響が心配そうに尋ねてくる。
次の仕事が決まっていないのに辞めるなんて訳ありに決まっている。
「社長の息子に粘着されて。それで家まで押しかけられて……」
「ストーカーか……。酷い目に遭ったね」
「はい……」
瑞音は立て続けに見舞われた不運を思い出した。
とても落ち込んでいたが、響との再会によってすっかり頭から消えていた。
「それじゃあ、仕事も家も一気に替えたくなるよなあ……なるほど」
響が箸を置く。
「じゃあ、俺とこの家で同居しない?」
「えっ……」
「無料で住めるから、安心して仕事を探せるよ。それに、つきまとわれてるんだったら男と一緒に住んでたほうが安心じゃないか?」
「それはそうかもしれないですけど……」
「部屋は客間が空いてるし、タワマンだから一階に警備員がいる。何かあったらフロントに連絡したら、コンシェルジュが対応してくれるよ」
「……」
聞けば聞くほど魅力的な条件だ。
だが、高校時代の先輩というだけで甘えるわけにはいかない。
断ろうと口を開きかけた時だった。
「でも、条件がある。いや、お願いかな」
「なんですか?」
「俺の添い寝係になってほしい」
冗談かと思ったが、響の顔は真剣そのものだ。
「添い寝って……」
「誓ってやましいことはしない。ただ、昨晩みたいにそばで寝てほしいんだ」
「い、一緒に寝るってことですか!?」
響がテーブルに手をついて頭を下げる。
「あんなに爽快に目が覚めたのって、もういつだったか思い出せない。きみがいてくれればきっといい睡眠が取れると思う!」
「で、でも……!」
「頼む!」
響からは切実さが伝わってきた。
確かにハードな仕事をしている響にとって、睡眠は死活問題だろう。
そして、仕事、私生活共にトラブルに見舞われた瑞音は疲れ切っていた。
これから新たな住まいを探して、生活を立て直す気力がない。
それに――もう少しだけ響のそばにいたかった。
「私こそ……お願いします」