恋とバグは仕様です。 ~営業スマイルで喧嘩して、恋に落ちるまで~
第3章「レビューよりも、お前の言葉が痛い」
01|“恋未満”のコードレビュー


「……はぁ。ここ、修正依頼ね」

「またかよ。ロジックに問題はねえだろ?」

「でも、表示タイミングがズレてるの。UXに関わるから」

「それはUIの範囲だろ。俺はデータを送ってるだけで──」

「私が気になるなら、それはユーザーも気になるの。わかる?」

「──わかんねぇな」

 あの日、仮想恋人のテストを休止して以降。
 二人の距離は、妙に“微妙”になっていた。

 甘い言葉も、あたたかい仕草も、もう仮想じゃない──だからこそ、触れるのが怖くなる。

 曖昧な関係のまま、踏み込めないまま。
 仕事上の口論だけが、距離のバロメーターのようになっていた。

(なんで、またこんなにギスギスしてるの……)

 凛はふと、自分の胸に手を当てる。

 ──痛むのは、レビューされたコードじゃない。
 朝倉 遥人という“人間”に、近づけないことだった。



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