あなたがいないと、息もできなかった。

君のいない五年間



――透真サイド――




 奏音がいなくなってからの一週間。
 透真は、彼女の手紙を何度も読み返していた。


【これは、さよならじゃない。だけど今は、お別れです】


 最初、何かの冗談かと思った。

 帰宅すると、部屋には彼女の香りがかすかに残っていた。けれど私物はすべて消え、いつも二人分あったマグカップも、ハンガーも──ひとつずつしか残っていなかった。

(……どこに行ったんだ、奏音)

 スマホを開き、連絡帳をスクロールする。
 奏音の名前を押そうとして、指を止める。
 ──送信してはいけない。
 それが、彼女の“選んだ決意”を踏みにじる気がして、できなかった。

 

 深夜のキッチン。
 インスタントの味噌汁が熱すぎて、舌をやけどした。

 ──奏音がいたら、優しく冷ましてくれたのに。

 そう思ってしまった自分に、心底うんざりする。

 ……離れたのは、彼女のためだ。
 彼女が自分を捨ててでも歩きたかった人生を、台無しにしたくない。

 だけど。

 それでも。

 寂しかった。

 

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