あなたがいないと、息もできなかった。
第五章:もう一度、好きだと言わせて
再会から三ヶ月。
ふたりは、ほんの少しずつ連絡を取り合うようになっていた。
前のように毎日ではない。数日に一度、短いメッセージや空とかの写真。
【今日は雨だったね】
【駅前のパン屋、まだあったよ】
それだけで十分だった。
──依存ではない、静かな繋がり。
ふたりは、ちゃんと時間をかけて、「いまの自分」と「相手」を見つめていた。
そして──春。
透真が提案したのは、何気ない一言だった。
「桜、見に行かない? あの、昔よく歩いた川沿いの並木道」
「……うん。行こう」
***
その日、風は冷たかったが、空は晴れていた。
川沿いの桜は満開だった。
ライトアップされた花びらが夜空に舞い、まるで世界全体が淡いフィルターをかけたようにぼやけて見える。
ふたりは、少し距離をあけて歩いていた。
「……昔、ここで透真くんと手、つないだよね」
「うん。たしか、高校三年の春。夜にこっそり抜け出して……」
「私、あの時もすでに、“透真がいなきゃダメだ”って思ってた」
静かに、だけど迷いのない声だった。
「でも、今は違うの。あなたがいなくても、ちゃんと息ができる。朝も、自分で起きられる。夜も、一人で眠れる」
その言葉に、透真は笑った。
「……すごいな、奏音」
「ううん、違うの。……でもね、ちゃんと強くなった“私”が、それでもやっぱり思うの。好きだって」
彼女が立ち止まり、こちらを見た。
瞳が、桜の光を映してきらきらと揺れている。
「依存じゃない。憧れでも、幻想でもない。ちゃんと選び直した“私”が、もう一度あなたに、好きって言いたいの」
その瞬間、透真の心は一気に溶けた。
張りつめていた何年もの思いが、胸の奥で崩れていく。
「ありがとう……奏音。俺も──ずっと、ずっと、好きだった。これからは……君に“守られたい”って思ってる」
「ふふ……いいよ」
ふたりは笑い合い、自然と手をつないだ。
冷たい手。けれど、心はあたたかかった。
もう、壊れることを恐れない。
依存しないふたりが、それでも「一緒にいたい」と願う──それは、最も強く、やさしい愛の形だった。