あなたがいないと、息もできなかった。
スピンオフ
君を忘れない時間
――奏音サイド――
彼のベッドに置いた手紙を、振り返らずに出た朝。
涙はもう出なかった。
──泣きすぎて、出なかったのかもしれない。
それとも、これが「正しい」と言い聞かせすぎたからか。
鍵を返す音だけが、やけに冷たく響いた。
あの家には、私の全てがあった。
透真の温度も、匂いも、声も、優しさも。
でもそれと同じくらい、「私は彼がいなければ生きていけない」という思い込みも、ずっと染みついていた。
“このままでは、二人とも壊れてしまう”──
医師の言葉が、いまでも耳に残っている。
それが、すべてのきっかけだった。