あなたがいないと、息もできなかった。
スピンオフ

君を忘れない時間



――奏音サイド――



 彼のベッドに置いた手紙を、振り返らずに出た朝。
 涙はもう出なかった。

 ──泣きすぎて、出なかったのかもしれない。
 それとも、これが「正しい」と言い聞かせすぎたからか。

 鍵を返す音だけが、やけに冷たく響いた。

 あの家には、私の全てがあった。
 透真の温度も、匂いも、声も、優しさも。

 でもそれと同じくらい、「私は彼がいなければ生きていけない」という思い込みも、ずっと染みついていた。

 “このままでは、二人とも壊れてしまう”──
 医師の言葉が、いまでも耳に残っている。

 それが、すべてのきっかけだった。

 


< 7 / 17 >

この作品をシェア

pagetop