彼女はエリート外交官の求愛から逃れられない
第一章 最初の出会い
隣の本部長が外出してようやく自分の仕事だけに集中し始めた頃になって、目の前の電話が鳴った。
「お電話ありがとうございます。蓮見ロジスティックス営業二部 蔵原です」
「蔵原さん。僕だよ」
「本部長、どうされたんですか?」
今頃夕方から予定されているヨーロッパを中心とした貿易関係者の財界パーティーのホテルに着いた頃だ。
三十分前には到着できるようにしていたはずだから、時計を見ると15時20分。少し早めに着いたようだった。
「忘れ物したみたいなんだ。肝心の招待状が見当たらない」
そんなわけはない。招待されている取引先一覧を入れたクリアファイルの一番上に差し込んでおいた。
本部長の部屋へ移り、周りに目を配る。机の上は先ほど私が書類も片付けたから綺麗だし、机の下にもしや落ちているのかと探して見たけれど、それらしきものは見当たらない。
「本部長のお部屋には見当たりません。昨日の午前中に、私が取引先一覧をお入れした時にはファイルの一番上に招待状がありました。あれから中身を出されましたか?」
「あれ……そう言われればそうだな。どうしてないんだろう?」
その軽い言葉に嫌な予感がする。
本部長の机の引き出しを何気なく引く。いつもなら鍵がかかっていて開かないはずのそれは、なぜかすぐに開いた。
目の前には招待状。絶対わざとだ。
「お机の引き出しの一番上に入っていました。鍵がかかっていません」
「それは変だな。他の引き出しもかかってない?」
念のため二段目以降も引いてみたが、こちらは鍵がかかっている。ため息をついた。
「いいえ、他は鍵がかかっています」
「ああ、あー、思い出したよ、鍵を出すときに招待状をそこに置いたんだ。招待状はカバンのわかりやすいところに移そうとしたんだよね」
「そう、ですか……」
「悪いけど蔵原さん。その招待状をホテルまで頼むよ」
「お電話ありがとうございます。蓮見ロジスティックス営業二部 蔵原です」
「蔵原さん。僕だよ」
「本部長、どうされたんですか?」
今頃夕方から予定されているヨーロッパを中心とした貿易関係者の財界パーティーのホテルに着いた頃だ。
三十分前には到着できるようにしていたはずだから、時計を見ると15時20分。少し早めに着いたようだった。
「忘れ物したみたいなんだ。肝心の招待状が見当たらない」
そんなわけはない。招待されている取引先一覧を入れたクリアファイルの一番上に差し込んでおいた。
本部長の部屋へ移り、周りに目を配る。机の上は先ほど私が書類も片付けたから綺麗だし、机の下にもしや落ちているのかと探して見たけれど、それらしきものは見当たらない。
「本部長のお部屋には見当たりません。昨日の午前中に、私が取引先一覧をお入れした時にはファイルの一番上に招待状がありました。あれから中身を出されましたか?」
「あれ……そう言われればそうだな。どうしてないんだろう?」
その軽い言葉に嫌な予感がする。
本部長の机の引き出しを何気なく引く。いつもなら鍵がかかっていて開かないはずのそれは、なぜかすぐに開いた。
目の前には招待状。絶対わざとだ。
「お机の引き出しの一番上に入っていました。鍵がかかっていません」
「それは変だな。他の引き出しもかかってない?」
念のため二段目以降も引いてみたが、こちらは鍵がかかっている。ため息をついた。
「いいえ、他は鍵がかかっています」
「ああ、あー、思い出したよ、鍵を出すときに招待状をそこに置いたんだ。招待状はカバンのわかりやすいところに移そうとしたんだよね」
「そう、ですか……」
「悪いけど蔵原さん。その招待状をホテルまで頼むよ」
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