彼女はエリート外交官の求愛から逃れられない

逆プロポーズ

 お母さんは玲さんと会う前に、日奈さんの結婚記者会見をテレビで見た。

 それで、手紙の内容は本当だったんだとわかったようだった。

 それから、彼に会ってくれた。

「まったく、色々準備していたけど、結局のところ日奈の結婚会見が何よりの決め手になったのは残念だよ」

「でも、よかった……お母さんは玲さんを信じてくれました」

「交際は認めてくれたけど、結婚はもう少し待ってと言われただろう。プロポーズの話はしてある?」

 彼に先月プロポーズされた。婚約指輪は二年以上前から準備してあったと聞いて、私はびっくりした。

「まさか、この指輪を特注していたのに、相手からフラれて無視される羽目になるとは思わなかった」

「だから、ごめんなさい。でも、どうしてキャンセルしなかったんですか?」

「キャンセルなんてできない。特注だって言っただろう?君の名前も入れているし、前金も払っていた。指輪を受け取った時には、絶対日本に戻ったら君を取り戻すって思った」

「つまり、指輪の為?」

「指輪も理由のひとつと言えなくないな。怒ってる?」

「まさか。お金が無駄にならなくてよかったです」

「これからは何をするにもひとりで決めないで、まず相談してほしい。また僕が何か特注してたらどうする気なんだ」

「もう……」

 弦也は高校卒業後、お母さんの病気もあって大学に進学せず、実業団入りした。

 驚くことに、その後高校時代からつき合っていたマネージャーの彼女とすぐに籍を入れて結婚してしまった。

 お母さんは退院してから、弦也の家の近くに住んでいる。
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