彼女はエリート外交官の求愛から逃れられない

恋の嵐1

 ロンドンアイはカプセル型のゴンドラが32ついていて、ひとつに25名まで乗れる。巨大な観覧車。

 ファストトラックチケットといって、並ばずに入れる予約チケットだったらしい。

 驚いたのはシャンパンを渡されたこと。彼は私の手を引いて、テムズ川を見下ろす端のところにいくとシャンパンを持ち上げて乾杯した。

 素晴らしい景色。ため息がでる。そして横には素敵な人。

 私のシンデレラ体験ももうすぐ終わりだ。私の為に一日付き合ってくれたこの人にどうお礼を言ったらいいんだろう。

 彼はなぜか黙っている。疲れたんだろうか。

「あの、藤堂さん。本当におとといからずっとありがとうございました。本当に助かりました。せっかくのお休みを使わせてしまって、お礼もろくにせず、あの……感謝でいっぱいです」

「いや、僕も楽しめたよ。それに母のお土産もいいものが選べた。ありがとう」

 私はずっと気にしていたことを言った。

「あの、タクシー代とか全部、お食事代とか立て替えて頂いていて、お返ししたいんです。このチケットだって特別料金ですよね。あとでその……半分返すので教えてください」

「いいんだよ。僕も楽しかった。一人じゃ、こんなに楽しめないからね」

「ダメです!」

「じゃあ、また会ってくれる?次に会ったときに返してもらうよ」

「だから、藤堂さんはこちらにお住まいだし、いつになるかわからないでしょ。私は明日帰るんです!今日のうちに絶対払いますからね。払わないと帰りませんから!」

「あ、そう……。わかったよ」

 彼は黙って外を見た。怒ったの?ふと気づくと周りはカップルだらけだった。

 夕闇迫るロンドンを窓越しに見つめる恋人達が大勢いた。

 ゴンドラが頂上に来て、向い側にいた他のカップルがキスをしている。

 恥ずかしくて私は目を反らした。彼がぎゅっと手を握ってきた。
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