彼女はエリート外交官の求愛から逃れられない

玲side1

 琴乃を帰してから、ヒースロー空港で食事をして日奈が来るのを待った。

 琴乃には言えなかったが、日奈は元カノだ。原口日奈という女優。かなり有名になってきている。

 おそらく、苗字まで聞けば、琴乃も知っていた可能性が高い。

 日奈は大学時代の彼女で、国際派女優を目指して英語の勉強も頑張っていた。僕も映画が好きで、偶然話したのをきっかけに交際へつながった。

 自分というものをしっかり持っていて、自立していた彼女を好きになった。

 僕は、父の影響もあって海外志向が強く、外交官を目指していた。日奈も自分の夢があったので、僕を応援してくれた。

 だが、彼女がオーディションに受かり始め、名前が売れるようになると、事務所から交際NGが出た。

 日奈は内緒で付き合いたいと言っていたが、僕も外交官になり忙しく、会う時間が取れなくなった。自然消滅のようにして消えた仲だ。

 それが、数年たって彼女が海外配給の映画に出ることとなり、欧州局にいた僕は仕事上で関わりが少し出てきた。数年ぶりに彼女と仕事で会った。

 確かに美しくはなったが、僕の知る清らかな美しさではなくなっていた。業界内で色々とあったようだった。

 性格も少し変わっていた。目的の為に手段を選ばない。実は昔もそういう傾向があるにはあった。

 今の彼女は外務省高官と親しく、パーティーに必ず呼ばれる。欧州文化親善大使の役目を担い、僕と仕事で否応なく関わることが多くなり、また顔を合わせて話すことが多くなった。

 日奈は最近になって僕らの過去を野原参事官に告げた。

 デビュー当時交際していたが、事務所のせいで別れさせられたこと、今ならば事務所もOKなので、できれば復縁したいと言ったらしい。参事官は僕がフリーだと知っていて、けしかけてきた。

 今回の来訪も半分は仕事、半分はプライベートだ。

 彼女がカンヌに出品する映画の主役をやったことで、イギリスでも公開予定の映画館からの取材とテレビ番組出演が決まった。

 事前に想定問答や英語の受け答えなどを手助けするよう文化庁から依頼があり、参事官は当然のように僕を相手に指名した。

 あくまでも仕事としてお受けしますと参事官には伝えた。これでも外交官、仕事としてやらなければならないことはもちろんやる。だがいくら彼女に言われようと、よりを戻すつもりはなかった。

 その直前に琴乃と出会った。運命だと思った。日奈にははっきり彼女が出来たと伝えるつもりだ。
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