彼女はエリート外交官の求愛から逃れられない

久しぶりの逢瀬

　目の前には彼がいた。四か月ぶりだった。

　駅前で壁にもたれていた彼。私に気づいてこちらを見てにっこり笑った。私は彼の顔を見て自然と走ってしまった。

「……玲さん！」

　彼の腕の中に飛び込んだ。人目があることをすっかり忘れていた。

「琴乃……」

　彼も私をぎゅっと抱きしめて、首筋に顔をうずめた。顔をあげると目が合った。

　そこで初めて、周りの人が自分を見ていると気づいた。

「あ」

　私は彼の腕の中から飛び出して下がった。彼は驚いている。

「ごめんなさい、あの、その……」

　彼は黙って私の手を握ると、タクシーに乗り込んだ。

「スワンホテル東京へ」

「え？初詣じゃないの？」

「初詣は夜にしよう」

　そう言う。タクシーは羽田近くのスワンホテルを目指していた。

「日本へ来るとき外交官がよく利用するホテルなんだ。成田から直通でこっちへ来て、泊まることもある」

「そうなの？」

　大理石でできたホテルの門。白い壁紙。とても素敵なホテルだ。外人がたくさんいる。

「ここは、海外のお客様が半数以上だ。だから仕事で海外のお客様をご案内することが多い。だから、そのままここに泊まって控えていることもある」

　言われてみれば、周りは海外のお客様がほとんどだ。ロビーは英語が飛び交っている。日本とは思えない。

「琴乃は今日僕と泊まれないって言ってただろう？」

　弦也も帰って来ているし、無理だった。
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