彼女はエリート外交官の求愛から逃れられない

二度目の出会い

「ねえ、本当に行くの?」

「……行くよ。どんなに反対されても今回は行くからね」

 お母さんは同じことを何度も繰り返して言う。

 お父さんは海外で事故に遭い他界した。そのせいで、あちらに行くと何か起きると思い込んでいる。

 父の赴任先だったイギリスに住んでいたのは私がまだ小さい頃だった。

 親しくしていた日本人家族はロンドンにまだ住んでいる。娘同士も年が近くて仲が良かった。

 その幼馴染の彼女が結婚するというので、結婚披露のガーデンパーティーにお母さんと一緒に招待された。

「留美ちゃんにもお祝いを持って会いに行くって約束したわ」

「何があるかわからないのよ。外国は危険だわ。琴乃までいなくなったら私はどうしたらいいの。もう生きていけないわ」

「お母さん。弦也もいるでしょう。そんなこと言っちゃダメじゃない」

 お母さんは遅くまで同じことを繰り返し話していたが、最後は諦めたのか、ようやく寝てくれた。

 部屋に戻るとしばらくして扉をノックする音がした。

「弦也?どうぞ」

 Tシャツ、短パンの弟が立っていた。中学三年生なのに、私より15センチ以上背が高い。近くにいると上を見上げることになる。

「姉ちゃん、俺の新しいバッシュどこにしまったっけ?」

「確か、チェストの奥にいれたよ」

「なんだ、チェストの上かと思って箱を全部下ろして探したんだ。見つからないはずだよな」

 ちらっと私の部屋を覗いて、ベッドの上のトランクを見ている。

「母さんしつこかったな。姉ちゃん明日の準備はできたのか?」
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