彼女はエリート外交官の求愛から逃れられない

第三章 ゴシップ

 二年が経った。

 一度弦也とお母さんに会ったお正月から、彼はうちに来ることはなかった。彼は昇格してとても忙しくなったのだ。

 日本に帰国していても、結局本庁に出て会議があったり、東京から少し距離のあるうちまで来る時間はほとんどなかった。

 外交官とはとても忙しい職業だと聞いていたが、想像以上だとわかった。

 だから、彼が帰国している時は、私の方から出かけて行って会うようになった。

「琴乃。まだ内密だけど、今年度中に国内勤務へ戻ると思う」

「本当ですか?よかったですね、玲さん」

「ああ。やっと琴乃の側にいられるよ。長かった……」

 彼は感極まったように私を引き寄せた。軽くキスを交わした。今日の夜の便で彼は戻る。今回もあまり時間がなかった。

「お母さんはその後どう?」

「母は落ち着いています。玲さんのことあまり話していないから……でも、玲さんが帰国したらきちんと向き合うつもりです」

 彼にお母さんの病気のことは話してある。海外を怖がっていること、私が戻る前に発作を起こしたこと、全て話したあった。

 私はお母さんに、玲さんは二年以内におそらく国内へ戻ってくる予定だと話してあった。だが、お母さんは首を横に振った。

『どうせ外交官なんだからまた海外に行くんでしょう。よりによって、琴乃はなぜ外交官と交際しているの?あなたは私を置いて海外に行く気なのね!』

 その後お母さんは興奮して発作をおこしかけた。それからというもの、彼のことはお互い話題にしない。

 彼は私をそっと抱き寄せた。

「そんな顔をするな……お母さんのことは一緒に乗り越えていこう」

 私は顔をあげて彼を見た。優しい目が私を見ている。

「玲さん……あなたと出会ってから私は本当に変わったってみんなに言われる。明るくなったって褒められるの。今の自分が好きだし、玲さんがいないときっと昔に戻ってしまうわ」

「そうなのか?」

「ええ」

「じゃあ、僕は君に必要不可欠というわけだな」

「そうかもしれない……」

 彼の胸に顔をつけた。

 その日別れたのが最後になった。
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