彼女はエリート外交官の求愛から逃れられない

別れの決意

 彼からのメッセージは騒動の三日後だった。私は玲さんを信じていたから、記事を否定してくれてほっとした。

 ただ、出張が理由で連絡を取れなかったというのは、頭では理解できても、心がついていかなかった。

 いくら信じているとしても、こんなにマスコミに出ていて、本当の彼女である私が不安にならないはずがない。そんなことは玲さんだってわかっていたはずだ。

 釈明が遅くなったのには、会議の関係だと書いてあった。お仕事のせいなんだろうけど、日奈さんが言う通り、外務省の人は皆日奈さんとお付き合いを望んでいて、こうなったんだろう。

 玲さんはしばらくまた連絡できないというのに、何を言うべきなのか正直迷った。

 日奈さんと会ったのは記事の出た二日後だった。私からそのとき彼に連絡すればよかったのかもしれない。でも私は躊躇した。

 日奈さんは外務省が記事に写真が出ている玲さんをマスコミや噂から守っていると言っていた。

 彼は外務省からの指示で、マスコミ対策のため連絡を寄越さなかったのかもしれない。勝手な連絡は禁じられているのかもしれないと今更ながら気づいた。

 問題はそこだけではなかった。お母さんのことだ。

 大きな発作だったため、身体も衰弱して、今まで入院していた病院から大きな総合病院へ転院した。その病院は、家から遠くて会社とは別方向だった。

 入院費も相当かかり、病院の近くへ一時的に引っ越しても、社宅扱いにできない今の会社にいるのは、正直難しいと思うようになった。

 今日も会社で部長に相談した。

「病院の近くに引っ越せれば、何かあった時にすぐに行けるのですが、そうじゃないと手遅れになることもあると言われていて、一時的にでも病院の近くに引っ越したいんです」

「このあたりだとここまで通勤に二時間以上かかるだろう。おそらく、通勤費も上限を超えるから全部は支払えないと思うんだ」

「部長。住宅手当は難しいでしょうか」

「無理だ。それだけは規則だからどうにもならない。入社時にわかっていたうえで皆にはここへ入社してもらっている。だから遠距離通勤の人はほとんどいないんだ」

「そうですね……」

「介護休暇はそれなりに取れるとは思うんだが、君の場合すでにかなり取っているし、有給休暇も限りがあるからね」

「休暇はこれ以上取れないです。皆さんに迷惑をかけているのはわかっています」
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