彼女はエリート外交官の求愛から逃れられない

玲side3

 昨日の電話で、最後琴乃の様子が変だった。僕がすぐにでも帰国して琴乃と結婚したいと言ったあとからだ。

 何かあったなら話してほしいと確認のメールをしたが、いつもならすぐに既読になるのに、なぜかならない。あちらの日中にわざわざ連絡したがおかしい。心配になった。

 すると、こちらの夜中の時間になって返事が来た。僕は眠れなくて携帯を手元に置いていた。すぐに確認してショックで携帯電話を下に落とした。息が止まるほど驚いた。

『あの記事は私に多くのことを気づかせてくれました。玲さんも大変だったでしょうけれど、私も色々ありました。辛い時あなたの代わりに私を助けてくれた人がいます。玲さんごめんなさい。私と別れてください。あなたを待てなかった私のことはどうか忘れて幸せになってください。今まで本当にありがとうございました。さようなら』

「……どういうことだ、琴乃……」

 訳が分からなかった。帰国のたびに彼女の周辺を確認していた。急にこんなことを言うこと自体おかしい。助けてくれた人?一体誰だ?プライベートでも男の影はなかった。いや知らなかっただけなのか?

 すぐに携帯電話を拾った僕は彼女に電話した。しかし、着信拒否されていると画面は教えた。琴乃に拒絶された。僕は頭が真っ白になった。すぐにも日本へ帰りたかった。

 あの記事を否定したメールを送ったのは遅くなったが、彼女はそれを責めもせず、僕を信じていて良かったと言ってくれた。逆に僕は大丈夫なのかと心配してくれた。僕はそれにすっかり安心してしまっていた。

 今思えば、その後出張は続いてベルギーを回り、数日仕事漬けで、時差のある日本にいる琴乃に対して十分なケアをできなかった。反省はいくらでもあった。

 日本の状況は家族や友人から聞いてはいた。

 外務省内では僕だということはほぼ特定されていたが、緘口令がひかれて、情報を外に出すことは厳重に禁じられていたらしい。

 また、マスコミへの圧力も文化庁などから入って、日本にいない僕を追いかけまわすことはまずないし、そのうち落ち着くだろうと言われていた。

 ただ、僕から記事を否定したりするとかえって噂が再燃するので、やり過ごすようにと厳命された。

 日奈からは迷惑をかけてごめんなさいというメールがあった。だが、やり直したいという気持ちに嘘はないと書いてあった。

 琴乃にも迷惑をかけたことを謝りたいので、よかったら連絡先を教えてほしいと言われたが、僕は拒否した。琴乃には、僕から謝っておくと伝えたのだ。

 しかも記事のせいで、僕の帰国は難しい状況かもしれないと聞いていた。
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