月夜の呪われ王子と追放王妃~力のない聖女などいらないと厄介払いしたのをお忘れですか? 辺境の地で幸せを掴みましたので、今さら謝られても戻りません
月夜の王
レオナールが寝台に横になってしばらくすると、エミリアは侍女に導かれて応接室へ向かった。
扉の前で一度、深呼吸をする。胸の奥が締めつけられるように痛い。というのも、この扉の向こうにいるのがエミリアの両親だからだ。
侍女によれば、ふたりはエミリアが祝宴に招かれたと聞き、会いに来たのだという。
顔を合わせるのは、前国王アルフォンスの国葬以来。王都を離れる前にしたためた手紙も届いていたかどうか。結局、一度も返事は来なかったから、もしかしたら葬られたのかもしれない。
扉が静かに開く。真っ先に目に入ったのは見覚えのある背中だった。
「お父様……」
声が震えた。
振り返った父、エリク・トレンテスは、この数カ月で何歳も歳をとったように見える。 眼差しに浮かんだのは驚きでも怒りでもなく、ただ深い悲しみの影だった。
彼の隣で、母のオセアンヌが立ち上がる。
かつて夜会で王妃にも劣らぬ優雅さと称えられた母は、いまや白い髪をひとつに結い、細い手で口もとを押さえていた。
「……エミリア……あなた、本当に……」
言葉の続きを探すように声が震える。
エミリアは床に膝をつき、頭を軽く下げた。
「ご無沙汰しております。あのときは、ご挨拶もできずに……」
嗚咽が喉を塞ぎ、うまく声にならない。