月夜の呪われ王子と追放王妃~力のない聖女などいらないと厄介払いしたのをお忘れですか? 辺境の地で幸せを掴みましたので、今さら謝られても戻りません
燻る闇

 広間には、まだ血と煙の匂いが残っていた。
 王座の上でルーベンは拳を握りしめたまま、動けずにいる。月の光が差し込む床に、かつての威厳はもうどこにもない。
 助けを求めたわけでもない。だが、助けられてしまった。あの〝弟〟に――。
 レオナール。
 あれほど忌まわしく、存在そのものを消し去りたかった名。呪われた王子。そう蔑み、王家の恥として追放したはずの男が、今夜、あの宮殿の中で唯一〝王〟として立っていた。
 ルーベンの喉の奥から、押し殺したような声が漏れる。

 「……なぜだ。なぜあいつが……」

 震える拳を膝の上に叩きつける。痛みなど感じない。脳裏に、先ほどの光景が何度も蘇る。
 光の剣を掲げ、闇を裂いた弟。そしてその隣で、静かに祈りの光を放った女、エミリア。
 あのときの人々の目は恐怖でも同情でもなく、ただひとつの敬意があった。
 それが、レオナールに、そしてエミリアに向けられていた。
 誰も、王座に座るこの自分を見てはいなかった。
 昔からレオナールは邪魔だった。どうにか消す手段はないか、そればかり考える毎日だった。
 命を奪うのが手っ取り早いが、それでは長年のルーベンの痛み――王族でありがら忘れられた存在――に気づかせられない。
 そこで考えたのが呪いだった。そうと決まれば即行動。ルーベンに忖度していた宰相を通じ、呪術師を北方の森から呼び寄せた。
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