月夜の呪われ王子と追放王妃~力のない聖女などいらないと厄介払いしたのをお忘れですか? 辺境の地で幸せを掴みましたので、今さら謝られても戻りません
冷たい予感
春の風がまだ冷たい頃だった。
十歳のレオナールは、魔法騎士団の一行とともに北の森へ赴いていた。王都の外れで瘴気が発生し、魔獣の群れが現れたという報せを受けたのだ。
王家に生まれながら幼くして魔術の才を示した彼は、初陣の許可を得ていた。
「殿下、決して前には出られませぬよう」
騎士団長の言葉にレオナールは素直にうなずいた。が、その瞳はすでに前方の闇を見据えていた。
森の奥は、まるで世界そのものが息を潜めたかのように静まり返っていた。鳥も鳴かず、風すら止んでいる。空気の奥で、かすかに金属のような匂いがした。
やがて、黒い影が這い出してきた。
形を定めぬ瘴気の塊。そこから、異形の魔獣が生まれる。
鋭い爪、裂けた口。騎士たちは陣形を組み、剣を抜いた。
「下がって!」
声が響いた瞬間、レオナールの杖先に光が宿る。魔法陣が展開し、幾本もの雷光が奔った。光が森を裂き、魔獣の群れを貫く。
その光景に、騎士たちは目を大きく見開いた。
少年の詠唱はまるで歌のように澄んでおり、その魔力は王家の記録にもないほどだった。
「見事です、殿下!」
団長の声が上がる。