月夜の呪われ王子と追放王妃~力のない聖女などいらないと厄介払いしたのをお忘れですか? 辺境の地で幸せを掴みましたので、今さら謝られても戻りません
闇に紛れた悪意
山を下ったレオナールとエリオットが東の砦に辿り着いたのは、ちょうど太陽が沈んだ頃だった。
空は紫色に染まり、風に混じって焦げたような匂いがする。近づくにつれ、肌の上をざらついた瘴気が撫でた。まるで目に見えぬ砂嵐の中にいるような感覚だ。
馬車を降りたレオナールの体が風にあたり、淡く光を帯びる。銀の髪が風に靡き、闇に溶けるような輝きを放つ。
若き姿を取り戻したレオナールは、ゆっくりと地面に手をついた。
指先に感じる大地の鼓動が、どこか歪んでいる。通常なら清らかな魔力の流れが感じられるはずの地脈が、黒く濁り、脈打つたびに痛みのような反応を返してくる。
「見ての通りだ」
隣でエリオットが低く呟く。
結界石が並ぶ丘の斜面では、青白い光がちらちらと瞬き、ところどころで明滅している。本来なら均一に張られているはずの魔法陣が、まるで内側から引き裂かれたように、裂け目を生じていた。
レオナールは膝をつき、指でその裂け目の縁をなぞる。触れた瞬間、焼けるような痛みが走り、思わず息を呑む。
焦げた空気が肺を焼くようだったが、怯む暇はない。
「エリオット、結界の核を探る。中央の紋を解放してくれ」
「了解した」
エリオットが剣を抜き、刃先を地面に突き立てる。青白い光が走り、砂塵の下から古い魔法陣が現れた。