月夜の呪われ王子と追放王妃~力のない聖女などいらないと厄介払いしたのをお忘れですか? 辺境の地で幸せを掴みましたので、今さら謝られても戻りません
光にとけた呪い
 暗闇の中で、エミリアは微かに光を感じながら目を覚ました。
 頭がぼんやりとして、目がかすむ。視界が徐々に鮮明になり、馬車に乗せられているのだと気づく。

 (いったいどうして……)

 周囲に目をやると黒衣の者たちがいた。全員が冷たい目を光らせ、剣や短刀を手にしている。まるで精鋭の護衛のようだと直感的に理解した。

 「どこへ向かっているの……?」

 声は震え、喉が乾いていた。
 ひとりの黒衣が微かに身をかがめ、冷たく答える。

 「黙っていれば、傷つけることはない」

 甘い香りがした直後から記憶がない。おそらく自分はさらわれたのだろう。
 だが、いったいなぜ。なんのために。

 「お願い……お願いだから、帰して……」

 小さな声で懇願するが、誰も答えない。
 馬車は揺れ、外の夜風が窓から差し込む。春だというのに匂いは冷たく湿っている。

 (落ち着いて。落ち着くのよ……)

 エミリアは手を胸に押しあて、必死に平静を装う。しかし心の奥では恐怖が渦巻き、今にも取り込まれそうになる。

 「どうして……こんなことを……」
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