月夜の呪われ王子と追放王妃~力のない聖女などいらないと厄介払いしたのをお忘れですか? 辺境の地で幸せを掴みましたので、今さら謝られても戻りません
新王の誕生
王都から戻ったミカエル領は、王都の荒れ果てた地下礼拝堂とはあまりにも対照的だった。やわらかな朝霧が薄く漂い、太陽の光が金色の筋になって大地を照らしている。
馬車が城の前に止まり扉が開くと、森から漂う緑の香りが通り抜けた。
戻ってきたという実感が胸に広がっていく。
王都の地下聖堂にレオナールが助けに現れたときのエミリアの驚きと安堵は、今思い出しても体を震わせる。
エミリアがさらわれたと知ったとき、レオナールは真っ先にルーベンを疑ったという。王家の紋章がついた肩章が庭に落ちていたからだったそうだ。
しかし馬を走らせてルーベンの居室で彼を詰め寄ったが、彼は即座に否定したという。たしかにミカエル領の城に向かい、エミリアと会ったが、さらったりはしていないと。
そのときルーベンの脳裏に閃いたのが、彼の妻バネッサだった。
彼女が、地下祭壇のある中庭によく姿を見せていたこと。そして誰も知らないはずの扉の前で、なにかをたしかめるように立ち尽くしていたこと。それらの記憶が、ルーベンにバネッサを思い浮かばせたのだとか。
『まさかそんなはずは……』と否定しかけた唇は震え、気づけば彼はレオナールたちを先導していたのだと。
「エミリア様っ」
真っ先に駆け寄ってきたのは、カーリンだった。
目を真っ赤にして、スカートの裾も気にせず石畳の上を走ってくる。