月夜の呪われ王子と追放王妃~力のない聖女などいらないと厄介払いしたのをお忘れですか? 辺境の地で幸せを掴みましたので、今さら謝られても戻りません
静かな企み
夜の王宮は、かつてよりも静かだった。
神殿の鐘はもう鳴らない。廊下を満たしていた祈りの声も消えた。
代わりに響くのは、玉座の間の石床を踏む己の足音だけ。それが今の王都の〝秩序〟だった。
国王ルーベン・アルタミラは窓辺に立ち、暗い王都を見下ろしていた。
城壁の外、灯の途絶えた神殿が影のように沈んでいる。あの白い塔の最上階で、かつて聖女たちは夜明けまで祈っていた。風が吹けば、鐘楼の音が柔らかく城へ届いたものだ。
だが今、その音はない。沈黙こそが新しい王の証であった。
――これでいい。
そう自分に言い聞かせる。
神殿は民の心を縛る。父も弟も、そして……あの女も、皆そこに膝を折っていた。
ルーベンが求めたのは力だった。祈りではなく、意志で国を動かす力。
それなのに、なぜだ。
エミリアを追放した日から、夜になると決まって夢を見る。
雪の中、淡い光を放つ女。振り返ったその瞳が、自分ではなく〝誰か〟を見つめている。
その誰かの影が、決まって弟・レオナールの姿に変わるのだ。
「またか……」
苦い息が漏れる。夢から覚めるたび、胸の奥に残るのは、焼けつくような焦りだった。