月夜の呪われ王子と追放王妃~力のない聖女などいらないと厄介払いしたのをお忘れですか? 辺境の地で幸せを掴みましたので、今さら謝られても戻りません
静けさの中にある祈り
十日後、城の中庭に早朝の澄んだ風が流れていた。
春を待っていた花は開き、香しい匂いを運んでくる。
エミリアは玄関前に立ち、軽やかな外套の裾を整えた。
荷馬車のそばではセルジュたちが最後の荷を積み、馬の吐く息が朝陽のなかできらめく。
今日は王都への出立の日である。祝宴のための旅立ちではあるが、名ばかりの祝宴では済まされぬ予感は密かにある。
「寒くはないか」
声に振り返ると、レオナールが中庭に現れた。
昼の姿ながらも、その立ち姿は堂々としていて威厳がある。春の陽が外套の肩に落ち、銀糸を思わせる髪をやわらかく照らしている。
「ええ、大丈夫です」
「そうか」
「レオナール様は決して無理はなさらないでくださいね」
「わかっている」
王都までは馬車で三日。老いた体での移動は堪えるだろう。
「荷はすべて積み終わりました。いつでも出発できます」
セルジュが静かに告げる。
「では、乗りましょうか」