追放された搾りカス聖女は、第二の人生を謳歌する。なのに、激重騎士隊長が放してくれません! なんであんたぁ、ここにいるんだべ!?

 その後、ロヴァルト様は片付けも手伝ってくれて、気付けば太陽が空の真上まで昇っていた。

 そろそろ昼食の時間だ。朝食はいつもじぃちゃんが作ってくれているが、昼と夜は私が作る。まぁ、簡単なものしか作れないけど。

 軽く昼食を用意した私は、二人に声をかけた。
「じぃちゃん、ロヴァルト様お疲れ様。そろそろ昼食にしませんか?」
「……いや、私は……」
 ロヴァルト様は手のひらを前に出し、断るような仕草をする。

「え? そうですか? ロヴァルト様の分も作っちゃったんですが……」
「……!? ま、まさかブラウン殿が!?」

 ロヴァルト様が唇を噛み、顔を歪める。
 もしかして、料理人でもない者が作った得体の知れないものは、食べられないのかもしれない。
 
「申し訳ございません。今のは忘れて……」
「……いただこう」
「はい?」
 聞き返すと、

「……いただこう」
 もう一度、繰り返した。
 ……大丈夫、だったらしい。

   
「……おかわり、いります?」
 鶏肉とトマトのスープを秒で完食したロヴァルト様に、声をかける。

「……いただこう」
 そう言って木皿を私に差し出す。
(……さっきから、同じことしか言わんなぁ)
 
 おかわりのスープをよそって、ロヴァルト様にお皿を渡すと、また物凄いスピードでスープが減っていく。
 しかし、身のこなしはとても上品だった。

(ほぇ、優雅じゃ。田舎者とは違うべな……)
 感心しながら、ロヴァルト様の食事の様子を観察してると、彼の眉間に皺が寄り始める。

「……ブ、ラウン殿……」

(ちょっと、凝視しすぎたべ!?)
「あわっ、すみません!」

「……、おかわりをくれないか……?」

「へ?」
(まだ食うべぇ!?)
 私は呆気に取られつつ、おかわりを取りに行ったのだった。

 私はずっと気になっていたことがあった。

 ロヴァルト様は私のことを、“ブラウン殿”と呼んでいるが、じぃちゃんもブラウンだ。それどころか、このクレイ村の村民のほとんどがブラウンだった。

 彼が“ブラウン殿”と呼ぶたび、村民の何十人が振り向くことになる。それではややこしい。
 
 私はロヴァルト様の前にお皿を置きつつ、お願いを口にする。

「あの、ロヴァルト様。もし嫌でなければ、私のことをコレットと呼んでください」

「――っ!?」

 ロヴァルト様は大きく息を吸い込んだと思ったら、ピタリと動きを止めた。
 突然手が震えだし、スプーンに掬ったスープが零れ落ちる。

「えっ? 何だべ!? また、食べ過ぎべ!?」

 

 ――ガルド's  poem――
 
 あぁ なんてことだ
 あぁ こんなことが俺の身に起こっていいというのか

 慈悲深き天使よ 貴女のお作りになった至高のスープを賜るなど
 慈悲深き天使よ 貴女のその麗しき御名を呼ぶことを許されるなど

 あぁ なんてことだ
 あぁ こんなことが俺の身に起こっていいというのか

 あぁ……このまま 天に召されても悔いはない……
 
 ―――――――― 

  

 しばらく天井を仰いでいたロヴァルト様は、コホンと一つ咳払いをして姿勢を正す。

「それでは、……こ、コココココレット殿と、呼ばせてもらおう」

(コココココレット……? 騎士隊長様がココココって……)
 
 私は驚いてまばたきを繰り返したあと、吹き出した。

「ぶっ、なんだぁ、それ? 鶏みたいだべっ! ふふふっ」

 笑いながらロヴァルト様を見ると、彼は眉間に皺を寄せ、トマトみたいに真っ赤になっている。

(ふふっ、……なんか、かわいーべ)
 私はしばらく、笑いが止まらなかった。
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