白衣とエプロン 恋は診療時間外に
白衣とエプロン

休日の朝。

はりきって早起きした私は、植物たちに水遣りをしようとベランダへ出た。

(わぁー。トマト、ずいぶん実がついてる)

思わずしゃがみこんで、しげしげと観察。

植物の成長がこんなにも嬉しくて癒されるなんて知らなかった。

彼と暮らしたからこそ知り得たこと、わかったことはいっぱいある。

植物を育てる楽しさはもちろん、体によい良質なものを食べることの大切さとか、音楽のある生活の豊かさとか、それから――ペットと過ごす時間の愛おしさとか。

(グレちゃん……)

なっちゃんが無事退院してからほどなくして、預かっていた荷物を搬出することになった。

そして、お預かりしていたグレちゃんも、なっちゃんの元へ帰ることになった。

お別れの日、なっちゃんは本当に申し訳なさそうに謝った。

今にも泣きそうな顔で、秋彦さんや私に、そして――グレちゃんにも。

自分の勝手で振り回してしまった、と。

もちろん、誰も何も悪くないに違いない。

そりゃあ淋しかったけど、いつだって会いたいと思えば会いに行ける距離なのだし

猫は家につくという話があっても、やっぱりグレちゃんはなっちゃんの元へ帰るのが幸せだと思ったから。

そうして我が家は、二人と一匹の三名体制から二人きりの二名体制となった。

加えて、置きっぱなしだったエプロンもなっちゃんに引き取られて、彼と私は新品のエプロンをプレゼントされた。

「ちーちゃんには爽やかなミントグリーン。アキ君にはチェロケースとお揃いのミルクティー色ね。それぞれサイズもぴったりのはずだから」

なんだかとても“なっちゃんらしい”と思った。

私だけでなく彼にもエプロンを贈るあたりとか、色選びとか。

「千佳さん」

声のほうを見上げると、ミルクティー色のエプロンをした彼がひょっこり顔をのぞかせていた。

「あ、おはようございます」

「おはよう。コーヒー今淹れてる。今日は朝を軽めにしておいて、向こうで早めのお昼にできたらと思っているのだがどうだろう?」

「わかりました。お出かけ楽しみです」

今日はチェロのメンテナンスで楽器店へ行くという彼に、私もくっついていくのだ。

「お昼はすごく美味しいお店なのでお楽しみに」

「ますます楽しみです」


楽器店の近くにコインパーキングを見つけて、そこからまずはお昼を食べに出かけることにした。

彼はトランクではなく後部座席にのせてきたチェロを慎重に降ろすと――。

「よいしょっ、と」

慣れた感じでひょいと背負った。

(ああ、もうっ!)

もうもうもう、その姿に釘付けの私ですよ。

「ん? どうかした?」

「いえっ。な、何もっ」

チェロケースを背負ってる姿がラブリーな件!

「じゃあ行こうか」

「はいっ」

そんな彼と手をつないで歩くとか、萌えがすぎる件!!
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