砂上の城〜秘密を抱えた少年の数奇な運命
序章

父が、子のカルヴィンに求めたものは、
家の繁栄ではなく、
ただ、現状のまま、次世代に引き渡すこと。


『目立つことなく、ただ生きよ』


父はそう言って、我が子の才能を顧みることはなかった。


否定される個性。
許されるのは、『ただ生きる』こと。
正統な継承者が現れる、その日まで…

光当たることなく、
陰りをもたらすことなく、
何もせず、
ただ通り過ぎていく“時間”として存在するだけ。

なぜなら。

その身は砂上の城。
激しい降雨、強風、地震…ひとたびの災いで足元の砂はすぐに崩れ、城は倒れ、ひどいありさまになると分かっていて。

それでも父は愚行を犯した。


だから

常に慎重に、
人目を忍んで、
ひっそりと、
ただ生きていく…はずだった。







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