砂上の城〜秘密を抱えた少年の数奇な運命

子供が寝た後は


アルスが寝付いた後は静かな夜だった。


アベルはグラスに入れた酒を口に運びながら、分厚い書物を読んでいるカインの横顔を見つめた。

世間はカインが病弱だから体が細くて色も白く、男らしさはないが中性的な魅力があるのだと認識しているだろう。
しかもいつもうつむき加減でアベルの背後に控えているから、影も薄い存在だと。

ーー髪を伸ばして、化粧をしてドレスを着たなら、絶対にフォトキナ王国で一番の美女だ。

しかも生まれ持つ気品に裏打ちされた知性をまとった強いオーラは、この国の女性の誰もが敵わないと思う。

だが、それはアベルだけが知る秘密だ。
絶対に死んでも隠し通す。守り抜いてみせる。
それがアベルの生きがいで、生きる理由だと思っている。

「何を調べているんだ?」
「王妃様のお体が出産に耐えられるかと産婆から相談を受けているので、薬草の勉強を」

実は正妃が妊娠したのはこれが最初ではない。すでにこの五年間で二度、流産していた。

「俺には祈ることしか出来ないな。元気な男の子が生まれてくれと。
世継ぎ王子が生まれて自由になれる日が待ち遠しい。
その日が来たら俺は城を去り、剣の腕でも磨いて騎士になるか。諸国漫遊の旅に出てもいいな」

自由を手に入れたらカインと共に穏やかな毎日を過ごしたい。それがアベルのたった一つの希望だった。
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