砂上の城〜秘密を抱えた少年の数奇な運命

夢は叶わない



アベルは執務室でその知らせを今か今かと待っていた。


「少し、落ち着いてください、アベル」
「これが落ち着いていられるか」


落ち着きなく部屋の中をうろつくアベルにカインは思わずため息が出る。決済すべき書類はたっぷりある。だが、今のアベルにそれらを処理する余裕はない。


「期待はしないほうがよろしいかと」
「わかってるけどさ。夢なんて所詮叶わない。それならば見ない方がいいと。
それでも、オルディン家にはアルスが神から遣わされた。わずかな期待くらい、いいじゃないか」

その時だった。

「王子様、ご誕生!!」

大きな声で知らせが城内を駆け巡る。祝砲が轟き、一気に城内が騒がしくなった。

「…やった」

アベルは全身に喜びをみなぎらせ、かたわらのカインを力任せに抱きしめた。

「やったぞ、カイン!!これで俺は世継ぎから開放される!!」

アベルが喜んでいた。
だが。
カインの胸にはどす黒い不安が沸き起こっていた。

国王ディアルドの性格を思えば。我が子に王位を譲るためにはアベルが邪魔になるだろう。
新王子が健康に育てば、アベルがのらりくらりとかわし続けている政略結婚の話を一気に進めてくるかもしれない。


そしてその不安は、ある日急に現実となる。
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