砂上の城〜秘密を抱えた少年の数奇な運命

そして少年は大人になる


カインの世界からアベルの姿が消えた。


それは、太陽を失ったも同じだった。


周囲の人間が全て敵に見えた。カインを陥れてオルディン家を破滅へ導かんとする敵に。

ーーアベル。あなたのそばにいられた日々は、ほんとうに幸せだった。
でも、あなたはもういない。
もう、会えない。
仕えるべき主であり、すべてを捧げた愛しい人。
こんな別れがあるならいっそ、出会わなければよかった。愛を知らなければ、こんな苦しみも知らずに済んだのに。

アベルを失った虚無感と絶望感に苛まれる日々。
だが。

息を殺し、気配を消し、カインはそれでも生きることをやめなかった。
アルスを守り育てるという使命があったから。

一途にカインを慕うアルス。アベルが残してくれたカインの生きる糧。

ーー命にかえてでも守る。

だから毎日、神経をすり減らして生きるしかなかった。
なるべく人の目に触れぬように、誰かの興味を引いたりしないように。

ーーこれからの私は、アルスの為にただ生きる。
アベルが愛してくれたように、アルスを慈しんでいこう。
アルスの成長を希望に生きるのだ。

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