砂上の城〜秘密を抱えた少年の数奇な運命

君のいない世界


ブリュオー王国で迎えた三度目の夏。

アベルは城内の私室の窓から、外の中庭を眺めていた。

ブリュオー王国の短い夏がもうすぐ終わろうとしている。よく手入れされた庭に咲き誇っていた花たちも盛りを終え色褪せ、花弁を落としていた。

そんな晩夏の中庭を婚約者のアイリーン王女が楽しそうに走っている。
何人もの侍女たちがお転婆な彼女をつかまえようと追いかけているが、王女は常に彼らの裏をかき、巧みに逃げていた。

アイリーン王女を見ていると、彼女と同い年である愛しい我が子の姿がよぎる。

ーーアルス。元気だろうか。あんな風に笑顔で走り回っているといいが……まぁ、アルスはカインに似て体を動かす遊びより、頭を使った遊びが得意だからな。

アベルは、窓から自分の手元に視線を移す。
その横顔は憂いに満ち、かつてフォトキナの女性たちを虜にしたきらめきはない。
カインに会えない喪失感が彼から覇気を奪っていった。

アベルが手にしていたのはフォトキナ王国からの報告書だ。

前回の報告書は、現在フォトキナの国境付近で起きている小競り合いについての報告だった。
その報告についてはすでに手を打ってある。

今回はそれに加えて兵力支援の要請が来ている。しかも師レオポルトから直々に。
書類が作成された日付はおよそ、一ヶ月前。
フォトキナからの書面はすべて検閲されている。厳しいチェックが入るためにアベルの手元に届くのは時間がかかるのだ。
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