砂上の城〜秘密を抱えた少年の数奇な運命

愛しき人よ共にあれ


ーーここは、どこ?天国…か?

ゆっくり目を開け、視界に飛び込んできた景色は真っ白な天井だった。
長い眠りから覚めた頭はぼんやりしている。


「よかった、目が覚めたか」

カインは声がした方に首を動かす。

そこには憔悴した様子のアベルの姿があった。

ーー天国じゃないな。アベルが天国にいるはずがない。
アベルに会いたいという願望が見せる夢の中か?

部屋にはアベル以外の人の気配はない。

「アルス…は?」
「怪我一つしてない。今は俺の手紙を師レオポルトに届けに行ってる。もちろん護衛もつけているから安心してくれ」

カインはほっと安堵の息をもらした。

山賊に襲われてアベルに助けられたことを、ゆっくりと思い出す。

ーーよかった。アルスが無事ならそれでいい。

「助けていただき、ありがとう、ございました」
「いや。俺たちがもう少し早く到着していれば、こんな怪我を負わせずに済んだのに」

「私の剣術では、歯が立たなかったです」
「俺もブリュオーに行って知ったが、ルールの多いフォトキナの剣術は実戦向けではない。
野蛮だが、実戦ではどんな方法を使っても勝たなきゃ死あるのみだからな。俺もだいぶ鍛えられたよ」

アベルがカインの手をぎゅっと握っている。
頭ははっきりしないが、アベルの温もりが手から伝わってなんだか幸せな気分だ。
やはりまだ夢の中なのかもしれない。

< 219 / 246 >

この作品をシェア

pagetop