砂上の城〜秘密を抱えた少年の数奇な運命

謎多き王妃



オルディン公爵家の応接間でアベルは師レオポルトと二人で対峙していた。

このフォトキナで父王と兄王の二代にわたって宰相を務めた偉大なる師は、いつでもアベルの意思を尊重し味方でいてくれた。だから、カレンとの結婚も簡単に許してくれると思っていたのだが。

目の前のレオポルトの表情は硬くこわばっていた。

「カルヴィンの妻だった女性と結婚するなんて、気は確かですか?」
「もちろん。俺はカレン・オルディンを后として兄に代わってこの国の玉座に座るつもりだ」
「国政もおろそかになってしまうほどディアルド陛下を追い詰めてしまった我々を許し、フォトキナを救ってくださると言ってくださったお心には感謝しかない。ブリュオー王国のラインハルト国王まで味方につけて帰っていらしたその手腕も見事です。
ですが、私は反対です。
オルディン家の遠縁とはいえ、田舎から出てきたこともない女性が王宮で正妃としてふるまえるとは考えられない。カルヴィンでさえその女性を王都に連れてきていなかったではないですか。
アベル。ブリュオー王国のアイリーン王女とこのまま結婚してください。まだ若い王女ですが、今から教育をすれば立派なお妃になれるでしょう」

レオポルトの意見はもっともだった。

「ならば、この話は終わりだ。カレンを后に出来ないのならば俺は王位になど就かない。
忙しいところ、ご足労いただきありがとう師レオポルト。
アルス!師レオポルトのお帰りだ。馬車の用意を頼む」

隣室で控えていたアルスが顔を曇らせて現れる。
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