幼馴染御曹司と十日間の恋人契約で愛を孕んだら彼の独占欲が全開になりました
沙也の決意
 その言葉に勇気づけられたように、一週間ほどあとには沙也の心は決まっていた。

 数日、会社を休んで、ゆっくり休んだ。

 両親には「夏バテ」と説明して、もちろん暑い盛りなのだ。

 父も母も信じてくれて、気遣ってもくれた。

 その気持ちに甘えるようだったけれど、たっぷり眠って、消化のいいものを食べて、水分もしっかり摂って……。

 体調が落ち着くと共に、沙也の心も落ち着いていった。

 たまにお腹に手を当て、まだなにも感じられないはずのそこを、奇妙にあたたかく感じるのだった。

 倒れたあの日に、朦朧としつつも見た夢。

 沙也は内容を覚えていなかったけれど、あの夢の中で卵から伝わってきた息遣いやぬくもりは、きっと沙也のお腹にあった。

 やがて沙也は会社に復帰した。

 最初に訪ねたのは、医務室。

 あのとき助けてもらったお礼を言い、そして心を決めたことを医者に話した。

 医者は笑みを浮かべ、「素敵なことです」と頷いてくれた。

 そして紹介状を書いてもらい、沙也はその翌日、行こうと決めていた場所へ行ってきた。

 心を決めてしまえば、することはもうわかっていた。

 元々、あまり悩んだりするたちではないのだ。

 そう、清登との交際も、少し考えこそしたけれど、すぐに頷いたように。

 本格的な診断を受け、あるものをもらってきた、その夜。

 母に声をかけた。

「ちょっと聞いてほしいことがあるの」と。

 静かな、落ち着いた声になった。
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