幼馴染御曹司と十日間の恋人契約で愛を孕んだら彼の独占欲が全開になりました
進む季節
 季節は過ぎ、初夏から本格的な夏に移り変わった。

 そして時間の経過と共に、沙也の心もゆっくり落ち着いていった。

 傷を癒してくれる、一番の薬は時間だ。

 時間が経てば、どうしても記憶は曖昧になり、綺麗な部分だけが残るようになっていく。

 今の沙也には、ときには残酷なことでもある、その『時間の経過』が救いだった。

 数週間が経つ頃には、作り笑いでも無理をしたものでもない、笑顔が浮かべられるようになった。

 食欲がなかったり、涙を零してしまうことも徐々に減っていった。

 あの十日間の一ヵ月近くあとに、清登の家から『婚約します』という封書が届いても、まったくの平常心とはいかなかったが、少なくとも両親の前で「喜ばしいよね」と笑顔で言うこともできた。

 そしてそんな自分にほっとしたものだ。

 お祝いのメッセージカードとご祝儀を包んで、両親のものと一緒に郵送した。

 そのカードも、まったく胸が痛まなかったとは流石に言えないけれど、ペンを動かす手は震えずに動いたくらいだ。
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