忘れられない恋
-第4章-

月末の遊女






2016年5月。


俺、一ノ瀬 仁は広島の大学を卒業した後、

松江に戻り、大手住宅設備機器メーカーに就職していた。


やはりガキの頃からお世話になった地元松江は程よく静かで住みやすい。


これからは今まで受けてきた恩を返していくつもりだった。



今日は土曜日とあって仕事が休み、

俺は部屋で海斗と電話をしていた。



「それでさ、松本さんが誰か紹介してくれって言っててさ。今度、会ってみてくんね?」


海斗は何やら面倒臭そうなことを俺に頼み込んできた。


海斗も同じく松江で就職し、俺と良く頻繁に会っていた。



「はあ?いやだわ。めんどいし」


俺は嫌な顔をする。

恋愛は時間とお金の無駄であって、ただ傷つき、くだらない労力を使ってしまうだけだから。


もう二度とごめんだ。



「いいじゃん。知ってる奴で彼女いないのお前ぐらいだし。頼む」



「嫌だわ」



「そこを何とか頼む。会うだけ!なっ一生のお願い」



「はぁ……そんなんで一生のお願い使うなよ。たくっ、しょうがねえなッ!!会うだけだかんなッ!」



これ以上断ってもしつこい海斗は引き下がらないのは知っている。



ここは適当に会って、早めに終わらせばいいだけのこと。



俺は渋々了承した。



「おォ〜サンキューサンキュー。絶対損はさせねぇ!なんせ美人でFだからな、会ったらビビるぜェ」



「知らねえよ。つか、もういい?切るよ?」



顔やバストのサイズなんて1ミリも興味がない俺は長電話になる気がして、今すぐにでも電話を切りたい。



「おいおい!寂しいこと言うね、ま、今日会うし別にいんだけど」



「ちゃんと来いよ」



「任せとけって!莉緒もくると思うから」



今日の夜、俺たちは中島さんを交えて居酒屋で飲む約束をしていた。



「了解。じゃあ、また夜な!」



俺は電話を切り、画面が割れたスマホをふと見つめる。


もう変え時だろうか。


酷く画面が割れたスマホを見ると、あの日を想い出してしまう。



大学生の時に味わった心の痛み。


俺は恋愛で深く傷ついた。


まるで、この割れたスマホのように——
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