狂愛メランコリー
第1章 狂愛メランコリー

第1話 きみのためなら


 痛い。苦しい。息ができない。

 思いきり吸い込もうとしても、隙間風のように震える呼吸と(うめ)き声が漏れるばかり。

「……っ」

 視界は涙で滲み、すべての輪郭がぼやけた。

 “彼”の両手がわたしの首を強く締め上げている。

(なん、で……)

 どうしてわたし、殺されるの?
 どうして、彼が……?

「大丈夫。すぐ楽になるよ」

 彼が(いつく)しむように優しく微笑むと、すぅ、と視界の端から黒く染まっていく。

(やだ……。嫌だ、死にたくない)

 ────戻りたい。
 時間を巻き戻せたらいいのに。

 そして、やり直したい。
 彼に殺されないように────。

「“次”は失敗しないから」

 だんだん気が遠くなる中、そう言ったのがぼんやりと聞こえた。

(次……?)

 身体から力が抜けて、ふっと目を閉じる。

 彼の言葉の意味も分からないまま、わたしは意識を手放した。
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