狂愛メランコリー

最終話 きみのためなら


「この5月7日、おまえは死ぬんだ」

 すぐには飲み込めない言葉だった。
 だって、それは────。

「向坂くんが殺すから、じゃないの……?」

「ちがう。俺がそうする前から、おまえは死んでた」

「どういう、こと?」

 意味が分からない。
 分からないのに、心臓が嫌な収縮を繰り返している。

「最初に死んだときのこと、覚えてるか?」

 はっきりとは覚えていない。
 けれど、同じことを蒼くんに聞かれて、少しだけ思い出した。

『死ぬときは強く願えよ。“やり直したい”って……』

 豹変(ひょうへん)した彼に首を絞められた。きっと、それが最初の記憶。

「断片的には覚えてる。屋上で殺されたんだよね? わたし……」

「ああ、確かにそれが最初だ。()()殺したのは」

「え……?」

「それ以前にもおまえは死んでるんだ。何度も何度も、ありえねぇような死を繰り返してたんだよ」

 衝撃を受ける傍ら、その言葉にまったく心当たりがないわけではなかった。

 “昨日”だってそうだった。
 偶然とは思えないような出来事のせいで、危うく死にかけた。

 まるでわたしが死ぬシナリオができあがっているみたいに、不自然な状況に晒された。

「どうして……?」

 どうしてわたし、死ぬの?

 これまでは、向坂くんが残忍な欲求を満たすためだけに繰り返しているのだと思っていた。

 けれど、ちがった。
 彼が殺すより先にわたしが死んで、ループが始まっていたのなら。

「たぶん……三澄が死んだせい」

「理人が……?」

「本来死ぬはずだったおまえが生き永らえて、生きるはずだった三澄が死んだ。そのせいでこじれた」

 確かに、わたしは死んでいるはずだった。
 理人に殺されたあの日、それが本来の出来事だった。

 でも、死に際に“やり直したい”と願ったことで時間が巻き戻って、そこから歯車が狂い始めたんだ。

 本来の運命をたどらなかったから。

 歪んだ現在を修正するためか、わたしが別の要因で命を落とすようになった────。

「そんな……」

 だけど、その理屈なら妙に納得してしまう。

 わたしが必ず死ぬようになっていることも。
 向坂くんに殺されたり自殺したりする以外には、不可解な死を遂げていたことも。
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