シンデレラは王子様と離婚することになりました。

第一章 王子様のプロポーズ

「え、今すぐ帰ってこい⁉」

 おしゃれなオフィスの内廊下で、白を基調としたシンプルなデザインの壁面に寄りかかりながら、携帯に向かって声を荒げた。

 私、工藤(くどう)捺美(なつみ)二十五歳。入社三年目の営業事務職。

 会社は、近代的な四角のガラス張りの高層ビルで、地上三十五階・地下一階の構造となっている。営業一課がある二十三階が私の仕事場だ。

 東京証券取引所プライム市場上場、研究や開発用の解析機器やビジネス情報機器、半導体などを扱う大手の一流企業に入社できたのは、私の人生の中で一番の幸運かもしれない。

「作り置きしたものがあるじゃない。それじゃ駄目なの?」

《もう食べちゃったわよ。早く帰ってきて、お腹空いて死にそう》

 電話の相手は、二十六歳でフリーターの継娘だ。苛々した様子を隠すことなく無理難題をふっかけてくる。

「どこかで夕飯を買ってくればいいじゃない」

《はあ?》

 おかしなことは言っていないはずだが、継娘の癪に障ったらしい。

《ちょっと、お母さ~ん、捺美が夕飯買ってこいだって》

 近くにいるらしい母親に嫌味ったらしく告げ口をする。

 ああ、もう面倒くさい。こめかみの辺りがズキズキしてきた。
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