その笑顔を守るために
寛解
数日後…食堂の何時もの席に山川と瑠唯は向かい合って座っていた。テーブルにはPCと多数の書類が積まれている。
「これが…君がこれ迄に集めた
「劇症型腸炎」のデーター?」
「はい…一部ですが…」
「…っ、これが一部?」
その量に山川が絶句する。
「凄い量だね。これ全部一人で?」
「ええ…まあ、四年…あっ…いえ去年一年は中断していましたから…三年程かかっていますが…」
「いや…それにしても凄いよ。しかもよくまとまってる。いちばん重要な初期症状のデーターも随分あるね。……確かに、引きつる様なっていう証言多いね。普通腸炎だとシクシク痛いとか、キリキリ痛いって言う患者さん多いけど…」
山川はじっくりと各データーに目を通していく。
「はい…ただ、血液検査の結果がまちまちで上手くまとまらなくて…もともと腸炎ですと白血球数が増加するので、その当たりのデーターに何か隠されているような気がするんですが…亡くなる前の…「劇症型」の症状がでる前の血液データーがあまりないんです。」
「あの…」
そこに現れたのは、三ツ矢だった。
「僕にも見せてもらって宜しいですか?」
「勿論!若手の医師がこの手の研究に加わってくれるのは大いに歓迎だよ!…と言っても、これを集めたのは殆ど原田先生で僕も偉そうなことは言えないけど。」
そう言って、山川は隣の席を三ツ矢に促した。
「……凄い量のデーターですね。」
テーブルの上を見渡し三ツ矢が目を見開いた。
「だろ?僕も驚いてる。これに比べたら僕の集めたデーターなんか全然だ。」
「でも…先生の調べられたこの部分…興味深いですよね。」
「ああ…ここね。僕もちょっと気になってるんだよね。」
三人は顔を突き合わせて長い時間データーを読み込んで検討を重ねた。…と、そこでふと三ツ矢が、PCにささるUSBメモリーについたタグに目を止めた。そして、そのタグに刻印されている文字をみて息を止めた。
「原田先生…これ…」
「1969.8.28. AKITO MITUYA」
「ああ…それは…紛争地域に行く前にアメリカで作ってもらったの。認識標…もし私が死んだら、誰かに見つけてもらえるかなって…でも、生きて帰ってきちゃった。」
瑠唯がフフっと小さく笑った。
「当たり前だろ!君は死ぬつもりだったのか?」
山川が声を荒げた。
「そ、そんなつもりは…ただ…もしもって…思って…」
「第一先生…認識票って自分の名前とか刻印するんじゃないんですか?…これって父の名前と…誕生日…」
「うん、そう…私が死んでも君のお父様の事を誰かに覚えててもらいたかったから…」
「あれ!今日は他の先生方と一緒なの?瑠唯先生…ならちょうどよかった、これ、おこわ…昨夜炊いたんだけど、量が多すぎちゃって…よかったら食べて。はい、お皿と箸。」
そう言って清掃のおばちゃんは、大量のおこわに皿と箸を置いて去って行った。重苦しくなりかけた空気を蹴飛ばして…
「これが…君がこれ迄に集めた
「劇症型腸炎」のデーター?」
「はい…一部ですが…」
「…っ、これが一部?」
その量に山川が絶句する。
「凄い量だね。これ全部一人で?」
「ええ…まあ、四年…あっ…いえ去年一年は中断していましたから…三年程かかっていますが…」
「いや…それにしても凄いよ。しかもよくまとまってる。いちばん重要な初期症状のデーターも随分あるね。……確かに、引きつる様なっていう証言多いね。普通腸炎だとシクシク痛いとか、キリキリ痛いって言う患者さん多いけど…」
山川はじっくりと各データーに目を通していく。
「はい…ただ、血液検査の結果がまちまちで上手くまとまらなくて…もともと腸炎ですと白血球数が増加するので、その当たりのデーターに何か隠されているような気がするんですが…亡くなる前の…「劇症型」の症状がでる前の血液データーがあまりないんです。」
「あの…」
そこに現れたのは、三ツ矢だった。
「僕にも見せてもらって宜しいですか?」
「勿論!若手の医師がこの手の研究に加わってくれるのは大いに歓迎だよ!…と言っても、これを集めたのは殆ど原田先生で僕も偉そうなことは言えないけど。」
そう言って、山川は隣の席を三ツ矢に促した。
「……凄い量のデーターですね。」
テーブルの上を見渡し三ツ矢が目を見開いた。
「だろ?僕も驚いてる。これに比べたら僕の集めたデーターなんか全然だ。」
「でも…先生の調べられたこの部分…興味深いですよね。」
「ああ…ここね。僕もちょっと気になってるんだよね。」
三人は顔を突き合わせて長い時間データーを読み込んで検討を重ねた。…と、そこでふと三ツ矢が、PCにささるUSBメモリーについたタグに目を止めた。そして、そのタグに刻印されている文字をみて息を止めた。
「原田先生…これ…」
「1969.8.28. AKITO MITUYA」
「ああ…それは…紛争地域に行く前にアメリカで作ってもらったの。認識標…もし私が死んだら、誰かに見つけてもらえるかなって…でも、生きて帰ってきちゃった。」
瑠唯がフフっと小さく笑った。
「当たり前だろ!君は死ぬつもりだったのか?」
山川が声を荒げた。
「そ、そんなつもりは…ただ…もしもって…思って…」
「第一先生…認識票って自分の名前とか刻印するんじゃないんですか?…これって父の名前と…誕生日…」
「うん、そう…私が死んでも君のお父様の事を誰かに覚えててもらいたかったから…」
「あれ!今日は他の先生方と一緒なの?瑠唯先生…ならちょうどよかった、これ、おこわ…昨夜炊いたんだけど、量が多すぎちゃって…よかったら食べて。はい、お皿と箸。」
そう言って清掃のおばちゃんは、大量のおこわに皿と箸を置いて去って行った。重苦しくなりかけた空気を蹴飛ばして…