その笑顔を守るために
軽快
『瑠唯先生へ
瑠唯先生…この二ヶ月間、私を一生懸命治療してくれてありがとうございました。
私は、この病気になって神様を恨みました。なんで私だけこんな病気になって苦しい思いをしなきゃならないんだろう。結局助からないのになんでこんな辛い治療をしなきゃならないんだろう。神様は不公平だと思いました。
でも、先生が私を診てくれるようになって、美香ちゃんともお友達になれて、ちょっとだけ元気になって、美香ちゃんや先生と沢山お話し出来たり赤ちゃん見れたりして、とても嬉しかったです。最初はもう生きてる意味なんかないとか、生まれてきた意味もないなんて思いましたが、新生児室の赤ちゃん見て、私もこんな風にお母さんのお腹から生まれてきたんだなぁと思ったら、何だか力が湧いてきて病気も治るんじゃないかと思いました。でもやっぱり病気は強くて、私は勝てそうにありません。私はきっと近いうちに死んでしまうと思います。けれどその前にどうしても先生に伝えたい事があります。私に何時も優しくしてくれてありがとうございました。飴も沢山くれて、甘くてとても美味しかったです。これからも沢山の患者さんを助けてあげて下さい。あの時の赤ちゃんみたいに。
先生、さようなら。お元気で。
私、生まれてきて、今日まで生きてこられて幸せでした。
ありがとうございました。
真理子』
夏の終わりの暑い西日がさすベランダでその手紙を読みながら、瑠唯は涙を流した。
瑠唯は走っていた。夕暮れ時の道をただひたすら走っていた。
考えなければならない事が山積みなのに、何も考えたくなくて、思考停止に陥るほど自分の肉体を追い込みたいと思った。
何処か遠くで雷がなっている。もう夏も終わるのだろうか?
雷は嫌いだ。あの音が戦場を思い起こさせるから。そう思った時、
ピカっと稲妻が走り物凄い雷鳴が轟いた。瑠唯は思わ耳を塞いでしゃがみ込んだ。すると再び稲妻が走り雷鳴と共に大粒の雨が降り出す。まずい…と思ったが、ひたすら走り続けてきた瑠唯にはここが何処なのかわからなくなっていたのだ。…どうしよう…暗くなりかけた周りを見回す…と数メートル先にコンビニの看板が見えた。そこまで走り雨宿りをする。タクシーを呼ぼうかとも思ったが、既に着ているランニングウエアはびしょ濡れだ。こんな状態では乗車拒否をされそうだ。取り敢えず中に入って携帯の電子マネーで大振りのタオルを買った。肩からかけて、雨で濡れて透けて見えるウエアを覆う。…誰かに助けを求めようか?でも…誰に?こんな時に思いつく相手といったら大野くらいだが、今の状況を考えると連絡し難い。じゃあ、誰に?誰も思いつかない…その時、ふと山川の顔が浮かんだが、瑠唯は直ぐに打ち消した。バカな事をと自嘲する。
「原田先生!」
空耳かと思った。山川の事を考えていたから聞こえた気がしたのかと思った。…が、目の前にいたのは山川だった。
「山川先生…何で…?」
「ちょっと用事で病院寄ったら、
真理子ちゃんの事聞いて…気になって部屋を訪ねたらいないから、隣の滝川に聞いたら走りに出たんじゃないかって言うから…雨も降ってきたし…探しに来たんだ。びしょ濡れじゃないか!此処からだと僕の家が近い。家でシャワーを浴びよう。…タオルと着るものは貸せるけど…下着は貸せない…此処で買って行こう…」
少し戸惑いながら…しかし有無を言わせぬ山川の勢いに押されて、瑠唯は已む無く再び店の中に戻って下着を探した。それを掴みレジに向かうと数本の飲み物を入れた籠をもって山川が待ち構えていた。一緒に払うと言って財布を出した山川を押し留め電子マネーで支払いを済ませた。
「早く乗って!」
「でも…シート濡れちゃいます!」
シートにタオルを敷こうとする瑠唯を
「そんなのいいから早く!」
とせかし、音もなく車を発進させた。
瑠唯先生…この二ヶ月間、私を一生懸命治療してくれてありがとうございました。
私は、この病気になって神様を恨みました。なんで私だけこんな病気になって苦しい思いをしなきゃならないんだろう。結局助からないのになんでこんな辛い治療をしなきゃならないんだろう。神様は不公平だと思いました。
でも、先生が私を診てくれるようになって、美香ちゃんともお友達になれて、ちょっとだけ元気になって、美香ちゃんや先生と沢山お話し出来たり赤ちゃん見れたりして、とても嬉しかったです。最初はもう生きてる意味なんかないとか、生まれてきた意味もないなんて思いましたが、新生児室の赤ちゃん見て、私もこんな風にお母さんのお腹から生まれてきたんだなぁと思ったら、何だか力が湧いてきて病気も治るんじゃないかと思いました。でもやっぱり病気は強くて、私は勝てそうにありません。私はきっと近いうちに死んでしまうと思います。けれどその前にどうしても先生に伝えたい事があります。私に何時も優しくしてくれてありがとうございました。飴も沢山くれて、甘くてとても美味しかったです。これからも沢山の患者さんを助けてあげて下さい。あの時の赤ちゃんみたいに。
先生、さようなら。お元気で。
私、生まれてきて、今日まで生きてこられて幸せでした。
ありがとうございました。
真理子』
夏の終わりの暑い西日がさすベランダでその手紙を読みながら、瑠唯は涙を流した。
瑠唯は走っていた。夕暮れ時の道をただひたすら走っていた。
考えなければならない事が山積みなのに、何も考えたくなくて、思考停止に陥るほど自分の肉体を追い込みたいと思った。
何処か遠くで雷がなっている。もう夏も終わるのだろうか?
雷は嫌いだ。あの音が戦場を思い起こさせるから。そう思った時、
ピカっと稲妻が走り物凄い雷鳴が轟いた。瑠唯は思わ耳を塞いでしゃがみ込んだ。すると再び稲妻が走り雷鳴と共に大粒の雨が降り出す。まずい…と思ったが、ひたすら走り続けてきた瑠唯にはここが何処なのかわからなくなっていたのだ。…どうしよう…暗くなりかけた周りを見回す…と数メートル先にコンビニの看板が見えた。そこまで走り雨宿りをする。タクシーを呼ぼうかとも思ったが、既に着ているランニングウエアはびしょ濡れだ。こんな状態では乗車拒否をされそうだ。取り敢えず中に入って携帯の電子マネーで大振りのタオルを買った。肩からかけて、雨で濡れて透けて見えるウエアを覆う。…誰かに助けを求めようか?でも…誰に?こんな時に思いつく相手といったら大野くらいだが、今の状況を考えると連絡し難い。じゃあ、誰に?誰も思いつかない…その時、ふと山川の顔が浮かんだが、瑠唯は直ぐに打ち消した。バカな事をと自嘲する。
「原田先生!」
空耳かと思った。山川の事を考えていたから聞こえた気がしたのかと思った。…が、目の前にいたのは山川だった。
「山川先生…何で…?」
「ちょっと用事で病院寄ったら、
真理子ちゃんの事聞いて…気になって部屋を訪ねたらいないから、隣の滝川に聞いたら走りに出たんじゃないかって言うから…雨も降ってきたし…探しに来たんだ。びしょ濡れじゃないか!此処からだと僕の家が近い。家でシャワーを浴びよう。…タオルと着るものは貸せるけど…下着は貸せない…此処で買って行こう…」
少し戸惑いながら…しかし有無を言わせぬ山川の勢いに押されて、瑠唯は已む無く再び店の中に戻って下着を探した。それを掴みレジに向かうと数本の飲み物を入れた籠をもって山川が待ち構えていた。一緒に払うと言って財布を出した山川を押し留め電子マネーで支払いを済ませた。
「早く乗って!」
「でも…シート濡れちゃいます!」
シートにタオルを敷こうとする瑠唯を
「そんなのいいから早く!」
とせかし、音もなく車を発進させた。